洋画の字幕翻訳の特徴とその類型
小林敏彦
人文研究 (2000), 100: 27-82
2000-09-29
○本論文の概要・本まとめにおける本研究の位置づけ
本研究は、洋画を活用した授業展開における、「学習者及び教育者の双方にとって有益な次資料を提供すること」を目的とし、字幕の本質の分析・特徴別の類型化を試みている。(ABSTRACT要約)
本まとめでは、conclusionにある字幕の役割と、その根拠となる具体例とについてまとめる。したがって本文中における、字幕を18種類(簡略・省略・類似・一般化など)に分類して論じている部分に関しては扱わないこととする。
○字幕の役目(conclusionより)
本論文のconclusionでは、字幕の役割・特徴を7種類に分けてまとめている。以下に示すものは、conclusionをさらに簡潔に書き換え、はその根拠となる具体例を付け加えた物である。
① 正確さよりも明瞭さを追及するもの。
② 字幕スペースの制約のために簡略・省略が行われる。
③ 字幕スペースに余裕があっても簡略・省略は頻繁に行われ、中には省略が行き過ぎた訳例もある。
例) [It's ten after 9:00. Why aren't you in school?] → 「学校 はどうした?」
『「もう9時過ぎているぞ」を入れてもよかったのではないだろうか。字幕スペースの余裕は十分あったはずであり、この省略は行き過ぎではないだろうか。』(p.67)
④ 場面の雰囲気・細かな感情の表現を損なう簡略・省略もある
例)[I’ll take it back to Tony with a message.] → 「おれが返してやる」
「説教してやろうという主人の怒りが伝わってこない。(中略)怒りは感じられるものの、やはり物足りない感じは否めない。」(pp.55-56)
⑤ 説明台詞は、スペースの制限によってその役割を活かすことが出来ない場合がある。そのため、混乱を避けるためにも積極的に簡略・省略される場合がある。
例)[Mr. Cannelli wants a little souvenior.] → 「その前に舌を切り取ってやる」
Mr. Cannelliは、組織のボスである。本論文の説明文から推測すると、Cannelliの手下がつかまって、殺される(殺されそうになる)シーンである。
『馬乗りになり、大きなペンチを顔に寄せていく画面は出てくるので、たとえ「小さな土産」と直訳しても何のことか十分見当がつくはずだが、翻訳者はより明瞭にしたかったのだろう。』(下線筆者)(pp.71-73)
⑥ 字幕では、情報の減少以外に、情報の明確化も見られる。観客の母語や背景知識を考慮したと思われる訳例、原文の台詞自体の曖昧さや不正確さなどを補足したと思われる訳例もあり、いわば説明台詞のような役割を負うこともある。
例1)[The wave hit Europe and Africa, too.] → 「津波は世界中を襲い」
「この作品ではアジアを含む世界の隅々まで被害が拡大したことになって」いる。「字幕訳は作品の流れを汲んで」、「一般化することで原文の不備を補足した適確な訳に仕上っている。」(p.43)
例2)[Now… Fulfill your destiny and take your father's place at my side.]
→「さあ、父を殺し自分の運命に従うがいい 父の後を継ぎ私の下僕となれ」
皇帝がルークに父親を殺してダークサイドに入ることを勧めているシーンである。原文にはない「父を殺し」を付加することで「自分の運命」の内容が明らかになり説明台詞の役割を字幕翻訳が果たしている。(p.70)
⑦ 日本語の助詞はスペースを取らず、時に英語の1文をも表わすことも可能であるため、字幕ではその利点が最大限に活用されている。
例1)[A:You clean anyone? B:No woman, no kids. That’s the rules.]
→「A:だれでも殺すの B:女と子供以外はな」
『助詞「な」を付けることで自分の信条を曲げようとしない意志の硬さが表わされている。』(p.65)
例2)[No matter what happens, we land this aircraft. Is that understood?]
→「何が何でも着陸させるのだ」
『「のだ」という文尾によって命令の絶対性が強調され、下線部の省略の分を補っているようである。』 (p.65)
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