自己紹介

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広島大学教育学部卒業。 読書・昼寝・ゲーム・カードゲームなどを趣味とする。 RIP SLYMEが好き。宮部みゆき・東野圭吾・星新一・夏目漱石・小川洋子が好き。 最近数学・宇宙論・翻訳などに興味がある。 アニメ・声優オタ

2011年5月31日火曜日

隠れたコンプレックス

奥田英郎(2008)『空中ブランコ』 文春文庫



本書は短編の5本立てである。
・空中ブランコ
・ハリネズミ
・義父のヅラ
・ホットコーナー
・女流作家


伊良部
伊良部と言う、ちょっと変わった精神科医のお話しで、いわゆる水戸黄門のような感じ。ただ、患者が語り手なので、伊良部の位置が毎回異なる。
以下、それぞれの作品についてまとめと感想を一行ずつ書く。



空中ブランコ
空中ブランコ乗りのジャンプが成功しないのだが、受けて(キャッチャー)に非があるようだ。
過去の体験が人間関係に影響を及ぼす興味深い話。

ハリネズミ
心因性の症状で、先端恐怖症になってしまったやくざのお話し。
メリハリ・男気・思い切りなんていう要素は読んでいて面白い。

義父のヅラ
ばればれのヅラをしている義父と、それを取りたい“破壊衝動”に駆られる主人公。
変なヅラをしている人はどこにでもいるもんで、大抵周囲には迷惑をかけるもんなんだと改めて痛感。

ホットコーナー
一塁に送球できない三塁手のお話し。
頭で考えると出来なくなるのは、全てのスポーツ・実生活にも当てはまる。

女流作家
原稿の締め切りが迫るのだが、前にも同じ内容を書いたような気がしてなかなか筆が進まない女流作家のお話し。
文章を書くとは何なのか、改めて確認させられた。



最後に
子ども心を忘れてしまうのは、社会のせいなのか。それとも、人間とは自然に子ども心を忘れてしまう生き物なのか。子ども心を忘れないように、いつも自分に逃げ道を作っておきたい。私にとってその逃げ道は、読書であればいいなと思う。




2011年5月30日月曜日

視点と言う主人公

乙一(2000) 『夏と花火と私の死体』 集英社文庫



最近読書ログではなくなってきているので、この辺で軌道修正を。

今回は、巷で有名になっている乙一の作品を読みました。
この本は二本立てで、「夏と花火と私の死体」と「優子」という作品が収められています。
両作とも、ジャンルはホラーのようです。

夏と花火と私の死体

1. 視点
この作品は、いわゆる一人称の作品です。しかし、なんだか不自然。と言うのも、「わたしは弥生ちゃんを羨ましげに見ながら」(p.13)というセリフが。ここにも一つ仕掛けがあります。

2. 全体としての小説の均衡
変わった一人称から始まり、最後の落ちにつながるところまで、この「一人称」がずっと効果的に働いています。全部読んだから言えることですが、最初の10頁位を読んでからいきなり落ちを見せられても、何となくなっとくできそうな内容。

3. 波
この作品は、大きなどんでん返しを期待して読むものではありません。とはいえ、途中途中で小さな波がいくつかあります。飽きることなく、スッと読み進めていくことが出来るように思います。


優子

アンビギュイティー
 どちらが正しいのか、嘘なのかほんとなのか、といった、どちらともとれる内容の作品であるような印象を得ました。人によって解釈のしようが分かれそうです。もしかしたら私自身が単に読み込めてないだけかもしれません。
 話に流れや内容があると言うよりは、どっちなのかという点に焦点を当てたような構成であるように思います。



全体

全体的に、ホラーともミステリーとも言えるような内容でした。ミステリーがお好きでしたら、読んでいて楽しむことが出来るように思います。
ただ、小学校の図書館にあるむずかしめの作品といったような感じで、「本格○○」を求めて読むものではないかな、とも思ったりします。

2011年5月29日日曜日

福岡翻訳ミステリー読書会


一次回

先日、福岡で開催された翻訳ミステリー読書会と言うものに参加してきました。
お世話をしてくださったのは、翻訳家の駒月さん三角さん、そしてゲストには、こちらも翻訳家の横山啓明さん御著書一覧はこちらから)がお見えになり、やく二十名ほどの参加者で課題図書:キャロル・オコンネル『クリスマスに少女は還る』(Judas Child) 務台夏子訳 についての感想を言い合ったり、細かいところを話し合ったりしました。

詳しい内容に関しましては、他の参加者のかたが既にまとめておられるので、そちらをご参照ください。

NOBNOBさん:『積んどくも読書のうち?』

皆さんが読書会での感想を言っているとき、本当に楽しそうに話されていました。細かいところまで読んでこられた方もおられました。面白いとか、面白くないとか、色んな感想・意見がありましたが、どの方の発表を聞いても「本当に読書が好きなんだな」と言うのが伝わるようでした。


二次回

二次回では、色んな人に色んな本をお勧めしていただきました。ロス・マクドナルド、ペレケーノス・・・新出単語が多い日でした。また、翻訳者で選ぶという方法もおそわりました。

駒月さんからは、御本人の翻訳書、ジャックリッチーの『カーデュラ探偵社』をお勧め頂き、早速アマゾンに手購入。これは短編集で、星新一のような面白さがある、とのことでした。

二次回も終盤に差し掛かったころ、横山さんとお話しする機会がありました。御本人翻訳のマット・ラフの『バッド・モンキー』というのがお気に入りのようで(?)こちらもメモして帰り、早速注文しました。



折角の機会だったので、一つ質問をさせていただくことにしました。「日本にも面白い作品はあるのに、あえて翻訳書を選ぶ理由を挙げなさい」という内容の下らない質問でしたが、横山さんは丁寧にお答えくださいました。まとめますと、



実際日本の本の質も上がっているし、なぜ翻訳書かと聞かれると答えづらい。あえて言うなら「外国への興味」とか、「舞台の違い」なんかが挙げられるだろう。違いという点では、日本にはない“バカや無茶”があるのも大きな点かも知れない。

また、日本の作家にしても、そのルーツは翻訳書にある。言わば、現代の日本の文化は翻訳書に育てられたようなものであり、そのルーツを追うのも醍醐味の一つ。さらには、このままルーツをおざなりにしたら、日本文学の衰退にもつながるやもしれない。
とはいえ、現代の若者はルーツを追う事をしなくなってきた。やはり、翻訳書云々ではなく、一つの作品として、作家として楽しむことが出来ればいいのではないか。


というような内容でした(と思います)。

もうひとつ。退室間際でした。「翻訳は読みにくいというイメージがあって取っかかりにくい」、という話に転んだのですが、その時横山さんはこのように仰いました。「最近はちゃんと読者を意識した翻訳になっている。原作がどんなに難しいものでも、読者を意識して、出来るだけわかりやすくしている。読者あってのもの。」

メモ不足で、実際どう仰ったかはっきり覚えていませんが、そのお言葉になにかぐっと来るものがあったのを記憶しています。メモが無い今、その「ぐっと来るもの」をここにうまく表現できないので(メモがあっても出来ないだろうと思いますが)、このお話はひっそり、自分だけの糧にしようと思います。



三次会

皆さん屋台に行くなどの流れに反して、僕は参加者のお一人(Sさんと称します)につれられ中州へ。建物はきらびやかで人は多くて、服装もスーツやらなんやらで、“表”とは違う雰囲気でした。数分すると、ぱっとしないビルにつきました。そこのぱっとしないエレベーターに乗って上へ。エレベーターが止まって扉が開くと、明らかに今までとは違うダークブルーの世界が広がりました。向こうからボーイさんが二人やってきて「これはこれはS様。お久しぶりでございます」、と、どこかのドラマかなんかでしか聞かないセリフ。これがクラブか、と圧倒されている内に、席に案内されました。

席につくと、最初に綺麗な女性が二人ほどいらしました。その後なんだかんだで入れ替わり立ち替わりがあって、結局男二人に女性三人という形に。

そこでの女性の立ち居振る舞い、ボーイの心遣いなんかに感心しました。女性はと言うと、Sさんが煙草を取り出すや否やライターがでてくるし、グラスに水滴がついたらせかせか拭いてるし、会話の流れの中で自然と持ちあげるし。ボーイさんはというと、いつの間にか現れたりいつの間にかいなくなったり。声のトーンははっきり聞こえるのに邪魔にならない。

これも折角の機会なので、立ち居振る舞いのいろはについてお尋ねすることに。以下にまとめます。

1. 飲み物
氷は音を立てずにセット。お酒はラベルを上にして(常識)、皆さんが持つところに触れないよう、ボトルの半分より下を両手で支えてそそぐ。そそぎ終わるときは、ボトルを少し回転させることでお酒を切る。氷を追加して、お水で薄める。この時、乾いた氷で口を切らないよう、全ての氷に水をかける。マドラーで氷を沈める。そして混ぜる。マドラーを抜く前に回っている氷を止める。水滴を拭いて出す。

2. 姿勢とポジション
2.1. 姿勢
手は膝の上で重ねる。左が上。理由は、右手は刀を握る手であり、それを隠すことで敵意の無いことを示すという日本の伝統から。
2.2. ポジション
今回のように5人の場合:奥から、
a)指名された人 b)お偉いさん(Sさん) c)連れ添いの世話役 d) 連れ添い(私) e)お酒を作る人
の順に座る。

奥が深いと思います。もはや日本の伝統ですね。


と、濃い一日でした。

読書会の記録と言うよりは、「中州探検記」みたいになってしまいましたが、よしとします←

最後に、御機会を与えてくださった駒月さん・三角さん、そして東京からお越しの横山さん、いろいろなお話しを聞かせてくださったSさんや参加者の皆さんに感謝します。

2011年5月25日水曜日

落語の翻訳に関する研究に向けて

この資料は、以下の三つの文書をまとめた物である。

①村上春樹・柴田元幸(2000)『翻訳夜話』文春新書小

②林敏彦(2000) 『洋画の字幕翻訳の特徴とその類型』人文研究 (2000), 100: 27-82

2000-09-29公表

James R. Bowers (1996) “AVOIDING THE TRAP AND SETTING IT FOR OTHERS: THE WORK OF INTERPRETATION AND PERFORMANCE IN THE TRANSLATION OF RAKUGO: JAPAN’S POPULAR NARRATIVE ART”

上二つに関しては過去のブログ記事参照

映像翻訳~字幕の役割~

『翻訳夜話』

[翻訳夜話]

0. はじめに

本書は、翻訳セミナーにおける二人(村上・柴田)のやり取り、また、そのセミナーの参加者との質疑応答を文字に起こしたものである。セミナーは3回、大学生対象・翻訳家志望者対象・現職翻訳家対象で行われている。

1. 翻訳の在り方

本書中で、村上・柴田が述べる“良い翻訳”の要素についてまとめる。

1.1. 原文の感じを読み取る

村上は、翻訳では、「シンパシーというか、エンパシーというか、そういう共感する心」や「相手の考えるのと同じように考え、相手の感じるのと同じように感じられる」(p.38)という点が大切であり、そのためには「原作者の心の動きを、息をひそめてただじっと追うしかない」(pp.62-63)と述べている。また、柴田はこの点に関して、「「うまい翻訳だな」と読者に感じさせること自体が、悪訳の証」(p.109)である可能性を提示している。

1.2. 訳語選択

 訳語を選ぶ際、村上は「目をクリクリさせた」や「目をむいた」という直訳の表現が目につくという。(p.101) 柴田もこれに関しては、「一単語、一単語対応で再現するひつようはないですよね。」と述べている。(p.103) ここから、文脈によって訳を変える必要もある、という点がうかがえる。

 しかしその一方、「創作的親切心が成功している翻訳の例を、僕はあまり目にしたことがありません。」と村上は言う。そうした「親切心」が、「翻訳者のただの自己満足」になる可能性の指摘である。(p.108) 訳語の選択は、その場その場で柔軟に行う必要があると言う事である。

2. 翻訳におけるスコポス理論

スコポス理論とは、翻訳はその目的に応じて形を変えるというものである。本書でもこの点が指摘されている。村上は、「細かいところが多少違っていたって、おもしろきゃいいじゃないか」(p.20) と述べている。また、翻訳者としては、「読む人は違和感を感じると思ったら、翻訳者は自分の判断で変えていいんじゃないか」(p.62)という見解も述べている。

 実際に自著の作品の翻訳に関しては、「自分が書いた本なのに「おもしろいじゃない」と他人事みたいに言って、最後まで読んでしまえるというのは、訳として成功している」としている。

[洋画・字幕]

0. 本論文の概要と、これをまとめるに当たって

本研究は、洋画を活用した授業展開における、「学習者及び教育者の双方にとって有益な次資料を提供すること」を目的とした物である。実際に35本の洋画を分析し、字幕の本質の分析・特徴別の類型化を試みている。(ABSTRACT要約)

本まとめでは、conclusionにある字幕の役割と、その根拠となる具体例とについてまとめる。したがって本文中における、字幕を18種類(簡略・省略・類似・一般化など)に分類して論じている部分に関しては扱わないこととする。

1. 字幕の特徴・種類(conclusionより)

本論文のconclusionでは、字幕の役割・特徴を7種類に分けてまとめている。以下に示すものは、conclusionをさらに簡潔に書き換え、その根拠となる具体例を付け加えた物である。

①正確さよりも明瞭さ(例示なし)

②字幕スペースの制約による簡略・省略。(例示なし)

③行き過ぎた省略

例) [It's ten after 9:00. Why aren't you in school?] → 「学校 はどうした?

『「もう9時過ぎているぞ」を入れてもよかったのではないだろうか。字幕スペースの余裕は十分あったはずであり、この省略は行き過ぎではないだろうか。』(p.67)

④雰囲気・細かな感情の表現を損なう簡略・省略

例)[I’ll take it back to Tony with a message.] → 「おれが返してやる」

「説教してやろうという主人の怒りが伝わってこない。(中略)怒りは感じられるものの、やはり物足りない感じは否めない。」(pp.55-56)

⑤混乱を防ぐための、説明台詞の簡略・省略

例)[Mr. Cannelli wants a little souvenior.] → 「その前に舌を切り取ってやる」

Mr. Cannelliは、組織のボスである。本論文の説明文から推測すると、Cannelliの手下がつかまって、殺される(殺されそうになる)シーンである。Cannelliは特に重要な役ではないため、下手に名前を出すと観客が混乱してしまう。 (pp.71-73)

⑥ 情報の明確化・説明台詞としての字幕

例)[Now… Fulfill your destiny and take your father's place at my side.]

→「さあ、父を殺し自分の運命に従うがいい  父の後を継ぎ私の下僕となれ」

「皇帝がルークに父親を殺してダークサイドに入ることを勧めているシーンである。原文にはない「父を殺し」を付加することで「自分の運命」の内容が明らかになり説明台詞の役割を字幕翻訳が果たしている。」(p.70)

⑦ 日本語の助詞を活用した字幕

例)[No matter what happens, we land this aircraft. Is that understood?]

→「何が何でも着陸させるのだ」

『「のだ」という文尾によって命令の絶対性が強調され、下線部の省略の分を補っているようである。』 (p.65)

[落語・翻訳]

0. 本論文とその“まとめ”に関して

0.1. 本論文は、三遊亭円笑による、文七元結(ぶんしちもっとい)の「枕」(落語における“前置き”のようなもの)の部分を分析している。構成は大きく三つに分けられる:①「落語とは何か」の説明(落語のレトリック・落ち・種類)②文七元結に関して(あらすじ・構成・解釈と分析・transcriptと英訳文の提示)③結論。

0.2. ここに取り上げるに当たって

「落語とは何か」や「文七元結に関して」に分類した部分は、あまりに具体的であるためここではほとんど扱わず、中でも重要と思われる点に関していくつか取り上げるだけにとどめる。

1. 落語のレトリック

1.1. 間

ここには、三種類の間:①笑いの要素に気付かせる間、②リズムを取る間、③場面の切り替わりを示す間、が示されている。(p.35)

1.2. 登場人物の細かな描写

落語では、登場人物が様々な方法で描写される。例えば、①声を変える、②表情を変えるなどによる、個人の特定・感情の表現が挙げられる。またこの描写によって、「いちいち誰が話しているか提示せずに済む」というのが挙げられている。(p.35)

2. 分かりづらい日本語の文化

枕で紹介される、三道楽煩悩(さんどらぼんのう)「飲む・打つ・買う」というメタファー、特に、“買う・打つ”が示すことは、英語圏に住む人にとっては分かりづらいようである。(pp.44-45)

3. 結論

日本の言語・文化を理解することで、落語の本質が見えてくる。翻訳においても、落語の本質・味といったものの訳出は、こうした理解に基づかなくては出来ないだろう。(p.46)

研究への展望

以上にまとめた文書の、本まとめにおける位置づけは以下のとおりである。

①翻訳夜話…翻訳の在り方、目的(スコポス)の在り方といった「一般的な翻訳」という視点

②洋画・字幕…映像翻訳という立場から、字幕の在り方に関する視点。

③落語…落語の翻訳に必要な要素とは。

このことから、「落語における(映像)翻訳」についての研究が出来ればいいな、と考えている。また、桂枝雀などの「英語落語」に関しても興味があるので、文献を探したいと思う。

2011年5月24日火曜日

映像翻訳~字幕の役割~

洋画の字幕翻訳の特徴とその類型

小林敏彦

人文研究 (2000), 100: 27-82

2000-09-29

○本論文の概要・本まとめにおける本研究の位置づけ

本研究は、洋画を活用した授業展開における、「学習者及び教育者の双方にとって有益な次資料を提供すること」を目的とし、字幕の本質の分析・特徴別の類型化を試みている。(ABSTRACT要約)

本まとめでは、conclusionにある字幕の役割と、その根拠となる具体例とについてまとめる。したがって本文中における、字幕を18種類(簡略・省略・類似・一般化など)に分類して論じている部分に関しては扱わないこととする。

○字幕の役目(conclusionより)

本論文のconclusionでは、字幕の役割・特徴を7種類に分けてまとめている。以下に示すものは、conclusionをさらに簡潔に書き換え、はその根拠となる具体例を付け加えた物である。

① 正確さよりも明瞭さを追及するもの。

② 字幕スペースの制約のために簡略・省略が行われる。

③ 字幕スペースに余裕があっても簡略・省略は頻繁に行われ、中には省略が行き過ぎた訳例もある。

例) [It's ten after 9:00. Why aren't you in school?] → 「学校 はどうした?

『「もう9時過ぎているぞ」を入れてもよかったのではないだろうか。字幕スペースの余裕は十分あったはずであり、この省略は行き過ぎではないだろうか。』(p.67)

④ 場面の雰囲気・細かな感情の表現を損なう簡略・省略もある

例)[I’ll take it back to Tony with a message.] → 「おれが返してやる」

「説教してやろうという主人の怒りが伝わってこない。(中略)怒りは感じられるものの、やはり物足りない感じは否めない。」(pp.55-56)

⑤ 説明台詞は、スペースの制限によってその役割を活かすことが出来ない場合がある。そのため、混乱を避けるためにも積極的に簡略・省略される場合がある。

例)[Mr. Cannelli wants a little souvenior.] → 「その前に舌を切り取ってやる」

Mr. Cannelliは、組織のボスである。本論文の説明文から推測すると、Cannelliの手下がつかまって、殺される(殺されそうになる)シーンである。

『馬乗りになり、大きなペンチを顔に寄せていく画面は出てくるので、たとえ「小さな土産」と直訳しても何のことか十分見当がつくはずだが、翻訳者はより明瞭にしたかったのだろう。』(下線筆者)(pp.71-73)

⑥ 字幕では、情報の減少以外に、情報の明確化も見られる。観客の母語や背景知識を考慮したと思われる訳例、原文の台詞自体の曖昧さや不正確さなどを補足したと思われる訳例もあり、いわば説明台詞のような役割を負うこともある。

例1)[The wave hit Europe and Africa, too.] → 「津波は世界中を襲い」

「この作品ではアジアを含む世界の隅々まで被害が拡大したことになって」いる。「字幕訳は作品の流れを汲んで」、「一般化することで原文の不備を補足した適確な訳に仕上っている。」(p.43)

例2)[Now… Fulfill your destiny and take your father's place at my side.]

→「さあ、父を殺し自分の運命に従うがいい  父の後を継ぎ私の下僕となれ」

皇帝がルークに父親を殺してダークサイドに入ることを勧めているシーンである。原文にはない「父を殺し」を付加することで「自分の運命」の内容が明らかになり説明台詞の役割を字幕翻訳が果たしている。(p.70)

⑦ 日本語の助詞はスペースを取らず、時に英語の1文をも表わすことも可能であるため、字幕ではその利点が最大限に活用されている。

例1)[A:You clean anyone? B:No woman, no kids. That’s the rules.]

→「A:だれでも殺すの B:女と子供以外はな」

『助詞「な」を付けることで自分の信条を曲げようとしない意志の硬さが表わされている。』(p.65)

例2)[No matter what happens, we land this aircraft. Is that understood?]

→「何が何でも着陸させるのだ」

『「のだ」という文尾によって命令の絶対性が強調され、下線部の省略の分を補っているようである。』 (p.65)

2011年5月19日木曜日

H23 広島県教育資料 2/7(第一章)1/3

第一章 「知・徳・体」の基礎・基本の徹底


簡単なまとめに関しては「教師の夢、今こそ」参照

1. 「確かな学力」の向上
1.1. 「基礎・基本」の定義
教育基本法・学校教育法の改正において、三つの重要な要素が明確に示された。(前掲:広島県教育資料1/7 「5.」参照

1.1.1. 確かな学力の育成
 【基礎的・基本的な知識・技能の習得】
○指導内容の増加は、社会的な自立の観点から必要なものに限る。
○発達段階などに応じた、学習基盤の構築が大切。
【例】
○小学の低・中学年
体験的理解・具体的な思考や理解・反復学習などの工夫による、「読み・書き・計算」能力育成の重視
○小学の中・高学年
体験・理論の往復による概念の獲得、討論・観察・実験による思考・理解重視などの工夫

 【思考力・判断力・表現力等の育成】
○観察・実験・論述等、知識・技能を活用する学習活動を発達段階に応じて充実
○基盤となる言語能力育成のため、国語科での基礎能力定着の上、各教科における記録・要約・説明等の学習に取り組む。その際、発達段階に応じた指導を心掛け、具体・抽象、感覚・論理、事実・意見など、言語活動における考慮が必要。

 【学習意欲の向上や学習習慣の確立】
○家庭学習も含めた習慣の確立においては、特に小学低・中学年が重要な時期
○個に応じたきめ細かな指導により、つまずきの解消や、基礎基本的知識・技能の定着を図り、分かる喜びを実感させる。
○体験学習・キャリア教育なとから、学ぶことの意味を認識させる。
参考:幼稚園、小学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)

1.1.2. 学力調査の活用
各学校における様々な取り組みをより一層充実させるため、データに基づく成果・課題の分析をもとに、授業研究をし、授業の質を高めることが重要。これについては、各種学力調査の趣旨・内容を理解したうえで、調査結果を詳細に分析し、各学校においては指導の改善に活用し、各市町教育委員会においては学校への指導・支援などに活用することが大切である。

 【分析】
①分析の目的と方法
課題を明らかにするための適切な方法を検討
②課題の明確化・焦点化
生徒の躓きの傾向を調べる。つまずく生徒の学習意欲や実態の傾向を調べる。
③つまずきや課題となっている原因の分析・考察
学習内容の定着状態が、学習実態・意識・生活実態とどう関係するか考察する。

 【共有】
①分析についての校内研修
対象学年の担任のみならず、全ての教員が分析結果と課題への共通理解を持つよう、校内研修をする。
②校内研修における指導の見直し
年間指導計画と、課題となる単元の指導計画・シラバスの見直し・改善。生徒の学習や生活の実態・意識の改善案の作成。改善の成果を検証できるよう、検証の視点・目標値などの設定。

 【活用】
①学力定着・向上のための指導改善

②家庭への啓発
家庭訪問などにおけるデータの活用

③小中連携

④学校評価

⑤次年度の学校教育計画の作成

1.1.3. 平成22年度調査の概要
以下、調査一般の概要を示し、英語における調査の概要をまとめる。

 【基礎基本定着状態】
○基礎的・基本的な学習内容は、おおむね定着。但し、中学校英語における「書くこと」の領域の定着が不十分。

 【課題】(中学英語)
①適切な語を用いた会話文の組立て②話の流れの理解③つながりある英文を書くこと
 【指導の改善】
①関連ある文法事項の共通点・相違点を比較しながら整理して理解させる。beと一般動詞・do とdoes・do とare等②代名詞・副詞の理解と、指示語の明確化による前後関係の確認③一貫した内容にするためのトピック英作文やモデル文の提示による英作文による文構造の指導、接続詞・副詞の用法の指導など

 【全国学力調査】
○おおむね定着だが、知識技能の活用に課題。

 【課題】(外国語)
①まとまりのある文章から情報を読みとる②まとまりのある文章の概要・要点の把握と、それに関して日本語でまとめて表現する③指定された文脈に応じた作文
 【指導の改善】
①文章の流れ・構造に注意しながら文全体を把握する指導の取り入れ②読みとった情報を日本語でまとめる活動の取り入れ③自分の考えを整理して英語で書く活動の取り入れ


1.2. ことばの教育の推進
確かな学力と豊かな心の基盤である「ことばの力」を生徒に身につけさせることを目的に、「ことばの教育」を推進する。新学習指導要領において、思考・判断・表現力の観点から言語活動の充実が求められている。各学校で、学校生活全体における「ことばの教育」を展開することが大切。

1.2.1. 本県の「ことばの教育」
○「知・徳・体」の基礎・基本の徹底をしていくための視点
全国に先駆けて「ことばの教育」に取り組んでいる本県では、「ことばの教育」を「知・徳・体」の基礎・基本の徹底を実現するための視点として位置付けている。国際化・情報化社会において、自分の考え・意見をまとめたり、正確な情報を的確にまとめたりする力、また、それを論理的で説得力を持った言葉で表現・発信するちからが求められている。加えて、都市化や少子高齢化においては、家庭や地域の教育力の向上、世代間でのコミュニケーション能力の育成が必要になってくる。このように、「ことばの教育」を通して、「生きる力」を養う事が大切である。

○児童生徒の発表の場
「ことばの教育」に関して、各学校では、生徒の実態に応じた特色ある取り組みを展開している。また、県教委実施の、「ことばの教育」に関する事業に多くの学校が参加しており、「ことばの教育」の取り組みgあ浸透してきている。

 【「ことばの輝き」優秀作品コンクール】
書く力育成のため、日々の学習で作成した文章を募集。

 【みんなでつくろう!「ひとしま自慢」】
地域を自慢する文章を作成することで、伝えたいことを簡潔にまとめる力の育成を図る

1.2.2. 新学習指導要領における言語活動の充実
新学習指導要領では、基礎的・基本的な知識・技術の習得を確立させるべく、その基盤となる言語教育の充実が示された。また、小中高の新学習指導要領解説総則編においては、論理思考のみならず、コミュニケーション・感性・情緒の基盤としても言語教育の推進が求められていて、各教科での言語活動の充実が挙げられている。

○児童生徒の現状と課題
学習指導要領の改訂に当たり、生徒の現状と課題が示された。具体的には「思考・判断・表現力」や、「知識技能の活用」、「将来や人間関係に不安をかかえる」という課題があり、それらの改善に言語活動の充実が求められている。

○思考力・判断力・表現力等の育成

学校教育法第30条第2項(前掲:広島県教育資料1/7 「5.」参照

知識技能は、それらの活用による課題解決、またその課程における思考・判断・表現によって習得されるものである。そしてその支えとなるのが、言語能力である。この観点から、特に思考・判断・表現力をはぐくむために、国語以外の教科における言語活動の充実が求められている。

○これまでの「言語活動」の見直し
これまでの言語活動にかけていたものは、「生徒にどのような力が身につくのかという目標の明確化」である。言語活動の充実は教科の力を高めるためのものであり、上に挙げた目標の設定によって実効あるものになる、と言うことにかんして、学校全体での共通理解・改善が大切である。また、各教科において設定する目標が異なるため、それぞれの教科で、求める力を効果的に身に付けさせる指導の工夫が必要。
(例省略)

1.2.3. 学校生活全体での取組
教科指導だけでなく、学校生活全体を通しての取り組みが有効である。学校生活における教師・他の生徒の言葉、掲示板・配布物など、多くの言語に接する中、教師自身が言語に対して高い認識を持つことが大切である。また、生徒同士が集団の中で安心して話が出来るような、生徒間、生徒教師間の好ましい人間関係の形成が大切である。

1.2.4. 読書活動の推進
○ねらい
 ことばを学び、感性を磨き、表現力を高め、想像力を豊かにするなど、人生をよりよく生きるための力を身につけていくうえで大きな力を発揮するものであり、「ことばの力」育成など、学力の基盤ともなるものである。H21全国学力・学習状態調査結果からも、一日あたり10分以上読書する生徒の方が、国語の正答率が高いという傾向もみられる。
 各学校において、生徒の望ましい読書週間の形成を測り、日常生活における読書活動を活発にする取り組みが期待される。

○読書活動の推進
① 「朝の読書」活動の推進
読書習慣の定着に有効。H17年以降、公立・県立小中高において実施率100%である。

②不読者(1か月に1冊も本を読まない児童生徒)数の減少
図書室の整備、推薦図書の紹介、読み聞かせ、ブックトーク、イベント、授業内での書籍の活用、読書ボランティア、公立図書館との連携など、読書推進に向けての取り組みの成果であると考えられる。

○広島県子どもの読書活動推進計画(第二次計画)
第一次計画に引き続いた施策。「本を『たくさん読む』、『よりよく読む』事を目指し、またそれらを支える『環境の整備』を進める」という基本方針に基づき、「小学校では、すべての児童が1カ月に1冊は本を読むことを目指します」、「『子どもの読書活動ボランティア』10,000人をめざします」、「市町の子ども読書活動推進計画を策定している市町が100%となることを目指します」など、具体的な目標を示し、その達成に向けた取り組みをしている。

○学校図書館の活用
ア 目的
図書・教材・資料を整理・保存し、生徒・教師の利用に供することで、教育課程の展開と、生徒の健全な教養を育成

イ 学校図書館を活用した教育の推進のポイント
教師全体が学校図書館の重要性について理解し、組織的・計画的に活用していくことが大切。

①読書センターとしての学校図書館
楽しんで自発的に、自由な読書活動をさせ、豊かな心・基礎学力・個性・自ら学ぶ(生きる)力を培う。

②学習・情報センターとしての学校図書館
問題解決・探究的な学習を通して、主体的な学習態度、情報収集・選択・活用能力を身につける。

③地域に開かれた学校図書館
家庭や地域における生徒の読書活動の活性化。公立図書館との連携による、読書案内・読書相談、また、学校図書館への貸出や情報提供。




『翻訳夜話』

村上春樹・柴田元幸(2000) 『翻訳夜話』 文春新書



0. はじめに
本書は、翻訳セミナーにおける二人(村上・柴田)のやり取り、また、そのセミナーの参加者との質疑応答を文字に起こしたものである。セミナーは3回、大学生対象・翻訳家志望者対象・現職翻訳家対象で行われている。現職翻訳家対象のセミナーにおいては、レイモンド・カーヴァーのcollectors、ポール・オースターのAuggie Wren's Christmas Storyを、村上訳・柴田訳で提示し、翻訳に関しての具体的な話を展開している。各セミナーを通して、似たような内容が述べられている面もあるため、本まとめにおいてはセミナー別ではなく、内容別にまとめていく。なお、本まとめにおける「二人」という表現は、「村上・柴田」を示す。

1. 翻訳の愉悦
本書を通して、二人とも翻訳の楽しさについて語っている。
1.1. 精読の愉悦
 精読の愉悦に関しては、以前のブログ記事:読書の愉悦を次世代にで述べた。今回は、それとはまた違った「翻訳の愉悦」が述べられているので、ここに取り上げる。
 村上は翻訳を、「もっとも効率の悪い読書」であり、「好きじゃないとできない」物としている(pp.110-111)このことから、二人が翻訳を好きでやっているという事がうかがえる。その理由を以下にまとめる。
1.2. 村上の場合
村上は、「翻訳のことになると、ついつい手が動いて、仕事が進んでしまう。いったいどうしてそんなことが起こるのだろう」と、本書のまえがきで述べている。(p.4)それでも翻訳が好きなのは、「文章というものがすごく好きだから、優れた文章に浸かりたい」という理由からであるという。(p.110) いわば、「いい文章のメカニズムを解明してみたい」という関心があるという事である。(p.58)ただし、本人も「なぜ翻訳が好きなのか」と言う問いに対する確固たる答えは持っていない様子で、いささか答えにくそうではあった。
1.3. 柴田の場合
柴田は、「紹介する喜び」として「翻訳は愛だ」ということを言っている。(p.112) しかし、愛は愛でも、複雑になっているそうである。その部分を以下に引用する。

「翻訳者が真ん中にいて、テキストは右にいて、左に読者がいて、それで要するに、左右両方の女性に愛を振りまいているような(笑)、そういう不純なことをいつもやっているのが翻訳かなという気になってきただから、愛は愛なんですよ。愛が複雑化してきたんです」(p.113)

2. 翻訳の在り方
良い翻訳とは、また、翻訳の際に何に気を付けているか、といった点に関してまとめる。
2.1. 原文の感じを読み取る
村上は、翻訳では、「シンパシーというか、エンパシーというか、そういう共感する心」や「相手の考えるのと同じように考え、相手の感じるのと同じように感じられる」(p.38)という点が大切であり、そのためには「原作者の心の動きを、息をひそめてただじっと追うしかない」(pp.62-63)。したがって、「自分の中に呼応するものがないテキストというのは、疲れます」(p.196)と述べている。この点に関して柴田は、「「うまい翻訳だな」と読者に感じさせること自体が、悪訳の証」(p.109)である可能性を提示している。

この点に関して過去ブログ記事より

2.2. 訳文における日本語
訳文も文章であることには変わりない。そこで、訳文を書く時に注意しなければならない点がいくつかあると言う。以下、三点にまとめる。
2.2.1. リズム
読みやすさに関して、村上はリズムの大切さを述べている。その部分を以下に引用する。

「ビートがない文章って、うまく読めないんです。それともう一つはうねりですね。ビートよりもっと大きいサイクルの、こういう(と手を大きくひらひらさせる)うねり」(p.45)

また、「目で見るリズム」や「目で追ってるリズム」と、「言葉でしゃべっているときのリズムとスピード」は違うという点も指摘している。(p.212)
2.2.2. 訳語選択
 訳語を選ぶ際、村上は「目をクリクリさせた」や「目をむいた」という直訳の表現が目につくという。(p.101) 柴田もこれに関しては、「一単語、一単語対応で再現するひつようはないですよね。」と述べている。(p.103) ここから、訳語の選択は辞書の意味をまる写しするのではなく、その文脈によって換える必要もある、という点がうかがえる。
 しかしその一方、「創作的親切心が成功している翻訳の例を、僕はあまり目にしたことがありません。」と村上は言う。そうした「親切心」が、「翻訳者のただの自己満足」になる可能性の指摘である。(p.108) 訳語の選択は、その場その場で柔軟に行う必要があると言う事である。


3. 翻訳におけるスコポス理論
スコポス理論とは、翻訳はその目的に応じて形を変えるというものである。(ブログ記事:藤濤 文子(2007)『翻訳行為と異文化コミュニケーション』参照) 本書でも、どういう翻訳文を書きたいかに依って、翻訳は形を変えるという点が指摘されている。この点に関して村上は、「細かいところが多少違っていたって、おもしろきゃいいじゃないか」(p.20) と述べている。また、翻訳者としては、「読む人は違和感を感じると思ったら、翻訳者は自分の判断で変えていいんじゃないか」(p.62)という見解も述べている。
 実際に自著の作品の翻訳に関しては、「自分が書いた本なのに「おもしろいじゃない」と他人事みたいに言って、最後まで読んでしまえるというのは、訳として成功している」としている。


4. その他、興味深いことに関して
本書には書かれていたが、まとめでは扱わなかった点に関して興味深いと思った点を挙げる。
○重訳
一度翻訳されたものを、また別の言語に翻訳し直すという作業の事。
○賞味期限
原作が世に出回った後、その熱が冷めないうちに翻訳書も完成させるべきという考え。正確さも大切だが、スピードが必要な場合もある。この点にかんしては、「賞味期限の長いもの」や、“色あせないもの”は無いのか、例えば、文化に関する物の翻訳書は、遅くても特に問題は無い気がするし、逆に遅ければ遅いほど味が出てくるものもあるのではないか。

2011年5月18日水曜日

H23 広島県教育資料 1/7(序章)

学習メモ

広島県教育資料の活用に当たって

1. 活用に当たって
 H22 10月発足「ひろしま未来チャレンジビジョン」は、「将来にわたって『広島に生まれ、育ち、住み、働いてよかった』と心から思える広島県の実現」を理念とする。
 その基本政策の一つ、「人づくりへの挑戦」の担い手として、「知・徳・体」のバランスの取れた「基礎・基本」の定着・「ことばの教育」・「キャリア教育」・「食育」等の充実を図る。
 信頼される公教育の確立・新たな「教育県ひろしま」の創造に努める。
 [本誌の概要]
第1章「知徳体」の具体的な指導法・手段
第2章「学校経営改革」の方針や具体的取り組み
第3章「授業力の向上」と「分かる授業」
第4章「ことばの教育」と「授業改善」の在り方とポイント
第5章「教育活動の推進」の方針

2. 教育改革の推進
時代や社会の変化の中、子どもたちが、柔軟にかつたくましく生きていけるよう、自ら学び・考えるなどの「生きる力」の育成のため、教育改革を一層推進することが必要。広島県における「知・徳・体の基礎基本の徹底」は不易の取り組みであり、H23年度においても教育施策の重点である。また、時代の要請を踏まえ、より一層確かな教育改革を目指す。
2.1. これまでの成果
知徳体の徹底は着実に進んでいる。(前掲記事:教師への夢、今こそ参照)また、評価システムについても全ての小中高・特支(公立)で導入され、学校評議員制度も9割の学校で導入されている。さらに、研修意欲の向上や、公開授業実施校数・コンピュータを用いた指導の出来る教員の増加の制度も見られ、信頼される学校づくりの取り組みも進んでいる。
2.2. 教育改革一層の推進
2.2.1. 「知・徳・体」の基礎・基本の徹底
その基盤の「ことばの教育」・「キャリア教育」・「学校における食育」の推進など、教育内容の一層の充実、発展に取り組む。
2.2.2. 夢を育てる環境づくり
国際社会の中の日本人という自覚を持ち、グローバルに活躍できる「広島っ子」の育成・専門高校教育の充実など、児童の様々な夢を育む環境づくりに取り組む。
2.2.3. 信頼される学校
改革の基盤として必要な要素。そのため、教員の指導力の向上・新たな人事評価制度の定着や「ひりしま教育の日」関連事業などの充実に取り組む。
2.2.4. 家庭・地域の教育力向上
「食べる!遊ぶ!読む!」キャンペーンを展開し、地域・保護者に対する啓発活動を通した子供の基本的生活習慣の確立や、子どもの放課後の活動拠点づくりや「親育て」学習を推進し、家庭・地域の教育力の向上に取り組む。

3. 学習指導要領の改訂
3.1. 教育三法改正の要素について
 平成18年12/22に新しい教育基本法が公布・施行された。これに伴い、「学校教育法」「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」・「教職員免許法及び教育公務員特例法」(教育三法)の一部を改正する法律が平成19年6/27に公布された。
 大きく変化する教育環境の中、子供のモラル・学習意欲、家庭や地域の教育力の低下などが指摘されており、若者の雇用問題も深刻化している。この中で教育基本法は、将来に向けた新しい教育理念を明確にした。三者の改正はそれに伴うものである。

以下引用
【学校教育法の改正】
○教育基本法の新しい教育理念を踏まえ、新たに義務教育の目標を定めるとともに幼稚園から大学までの各学校種の目的・目標の見直し。
○副校長頭の新しい職を置くことができることとし、組織としての学校の力を強化。
○第30条第二項 「前項の場合においては、生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない。」

【地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正】
○教育における国、教育委員会、学校の責任を明確にし、保護者が安心して子どもを学校に預けられる体制を構築。

【教職員免許法及び教育公務員特例法の改正】
○教員免許更新制の導入。指導が不適切な教員の人事管理の厳格化、教員に対する信頼を確立する仕組みを構築。
引用終わり

3.2. 学習指導要領の改訂について
 教育基本法・教育三法改正を踏まえ、指導要領の改訂が行われた。各関係法令を熟読・理解し、その背景を理解したうえで適切な教育課程の編成を行う事が大切。
 H20.1.17に、「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領の改善について」(答申)を公表した。その中で、現行の理念である「生きる力」をはぐくむことは、新学習指導要領に引き継がれることになった。
3.2.1. 学習指導要領改訂のポイント
改正により明確になった理念を踏まえ、子ども達の課題への対応という観点からの改訂。

・新学習指導要領(小中高)
①教育基本法改訂を踏まえ、②生きる力と言う理念の共有と③基礎的・基本的知識技能修得から、④思考・判断・表現力の育成と⑤学習の、意欲向上や習慣の確立を目指し⑥確かな学力確立に十分な授業数の確保と⑦豊かな心健やかな体の育成の指導の充実を図る。

・新教育要領(幼稚園)
①発達・学びの連続性や、②幼稚園と家庭での生活の連続性を踏まえた教育の充実③子育て支援と預かり保育の充実を図る。

3.2.2. 教育無いように関する主な改善事項
社会の変化に対応すべく、教科横断的な改善事項を整理し、改善した。
○言語活動の充実
○理数教育の充実
○伝統や文化に関する教育の充実
○道徳教育の充実
○体験活動の充実
○外国語教育の充実
○職業に関する教科・科目の改善
○重要事項
※高校における卒業単位・必修科目・教育課程編成の配慮
①74単位以上で卒業②共通性と多様性のバランス重視。国数外に共通必須科目の設定と、理科系の柔軟性を向上。③週30時間を超えてよいことを明確化。④義務教育段階の内容の定着を図るべく学習機会の設置を促進。

3.3. 特別支援学校学習指導要領の改訂について
3.3.1. 改訂の基本的な考え方
ア:幼小中高の教育課程の基準改善に準じた改善、イ:社会変化・幼児児童の障害の多様化に対応し、一人一人の教育ニーズに対応した支援の充実

3.3.2. 主な改善事項
○障害の重度・重複化・多様化への対応
「自立活動」について、それぞれの障害にあった指導の充実のため、「他者とのかかわりの基礎に関すること」を示すなどの改善と、指導計画作成の手順の明確化。
○一人一人に応じた指導の充実
各教科に渡る「個別の指導計画」作成を全ての幼児児童生徒に。教育・医療・福祉・労働等の関係機関が連携し、「個別の教育支援計画」作成を全ての幼児児童生徒に。
○自立と社会参加に向けた職業教育の充実
知的障害を持つ生徒に対する特別支援学校における職業教育の充実のため、高等部の専門教科に「福祉」の新設。また、地域・産業界との連携による、職業教育・進路指導の充実。
○交流及び共同学習の推進
幼小中高の生徒らとの交流・共同学習を計画的・組織的に行う。

4. 全国実施に向けて求められること
①教育目標・方針、学習評価などの見直し・教育課程への反映②教育内容の改善事項を指導計画に具体化③教職員間で理念の共有、保護者・地域への広報と理解促進④新学習指導要領に、「対応した」授業研究・研修の充実、教材開発、⑤「即した」学習評価、指導要録作成に関する理解、⑥「対応状況」について自己点検の実施

【幼小中高特における実施のスケジュール】
幼:全面実施中
小:今年度より全面実施
中:今年度採択・供給、来年度全面実施
高:今年度教科書採択・検定、来年度先行実施・採択・供給、再来年度全面実施
※高スケジュールの概要
①総則・総合・特活はH22より実施②数・理・理数はH24から実施③保険体育・芸・体・音・美、については、各校の判断によりH22より実施可能④福祉については各校の判断でH21より可能⑤それ以外はH25より実施

5. 学習評価について
5.1. 意識・目的
○生徒の学習状況を検証し、結果から水準の維持向上を保証する。
○学習指導の在り方の見直し、個に応じた指導の充実、学校における教育活動の組織的改善。

5.2. 評価の改善に係る3つの基本的な考え方
①現行の評価の在り方を基本的に維持しつつ、深化を図る。
→各教科の観点別学習状況の評価・評定は、目標準拠評価。
②新指導要領における改善を反映
→学力の3要素と評価の観点を整理
③教育は、地域・学校・生徒の実態に応じて効果的に
→学校の創意工夫を活かす現場主義的評価の推進

学校教育法第30条 第2項 本まとめ「3.1.」太字部分参照より
学力の三要素:
①主体的に学習に取り組む態度(関心・意欲・態度)
→新しい観点:学習内容に関心を持ち、自ら課題にトリムもうとする意欲・態度を身につけているかどうか
②課題を解決するために必要な思考・判断・表現力等(思考・判断・表現)「生きる力」
→教科の知識・技能を活用し、課題解決のための「思考判断表現力」を身につけているかどうか。
③基礎的・基本的な知識技能(「技能」・「知識・理解」)
→習得すべき知識・重要な概念・技術などを身につけているかどうか

※障害のある生徒に係る評価の考え方
○基本的には変わりは無い。しかし、生徒の障害の状態などを理解しつつ、一人一人にあった学習状況を一層丁寧に把握することが必要。
○改訂の主な事項を踏まえ、個別指導計画に基づく学習状況や結果の評価を実施することが必要。


2011年5月17日火曜日

三島の語らなかった三島~「文学そのものの美」を求めて~

杉山欣也(2008) 『「三島由紀夫」の誕生』 翰林書房



以下に、本書の概要とその感想をまとめる。

0. はじめに~本書の目的と、本まとめの流れ~
0.1. 本書の目的
本書の目的は、三島文学の更なる理解である。これまでの三島論においては、「三島が語ってきた三島」を大前提としてきた。そのため、三島自身の言及が無い点に関しての研究はおろそかにされていた。筆者はこれに意義を申し立て、「三島が語らなかった三島」、つまり、学習院時代のにおける「三島」に焦点を当てて論を展開している。
0.2. 本まとめの流れ
本書では、学習院時代の作品、三島のデビュー作『花ざかりの森』を中心に取り上げて、その作品の内容に関する論を展開しているが、本まとめにおいてはその具体的な「解説」は最小限にとどめることにする。代わりに、本書のエッセンスである「三島の語らなかった三島」という点に関しての記述を恣意的に取り上げ、まとめをした、ということにする。


1. 三島の語らなかった三島~「文学そのものの美」をもとめ~
ここでは、「0. 本書の目的」をもう少し詳しく記述し、本書の全体像とその目的をもう少しはっきりさせる。以下三項目にわたって述べる。
1.1. 読者の読みに介在する権力
筆者は本書の終わりの部分で『「文学そのものの美」に近づくために、まずは「あらゆる伝説」と「盲目的崇拝」とを払拭する』べきだとしている。(p.308) それは、これまでされてきた“三島の語る三島”による解釈への批判である。本書では

「おおげさに言えば自由な精神の飛翔を妨げ、作家の固有名のもと作品を単純なイメージに塗り固めることと同義」であり、「この先入観は、自由な思考を疎外し、容易に拭い去ることができないという意味において、ひとつの強大な権力である」(p.6) 

と述べられている。この「読者の読みに介在する権力」が「文学そのものの美」を阻害していると言うのである。 
1.2. 語られざる三島とは
三島は、自らも語るように、10代のころから一途に浪漫派であったとされている。しかし筆者は、自らを浪漫派と言い続ける態度の内に「むしろ三島が隠しておきたかったこと、知られたくなかったこと、しかし重要であったはずの何かを見出したい」と述べる。(p.12) 具体的には、三島の自己言及という場から「遡及的に定義された」10代の三島像を「三島の語る三島」とし、これに「三島の語らなかった三島」を対置することで、当時の三島を相対化することが、本書の目的である。
1.3. 具体的なアプローチ
「三島の歴史」として縦に見るのではなく、当時の学習院のありかた・人間関係・同時期の作品などの「横の関係」に注目して論じていく。これらはあまりに具体的にかつ詳細に渡って書かれているため、本まとめにおいては扱わない。

2. 感想:文学批評におけるリテラシー
 本書は一貫して、「従来の三島研究を疑う」という姿勢で本書を書いている。従来の研究がよりどころとしていた物は、三島本人の言葉であった。三島の解釈に本人の言葉を取り入れる、と言うのは、一見当然のように思える。しかし、本書が危惧するのは、「三島が隠そうとした三島」の存在であった。となれば当然、三島の言動に脚色が含まれている危険性がある。そこを問いただしてこそ、信頼できる「三島像」の獲得が出来る。
 最近、誤った情報が出回ることが多い。情報を読み違えたまま流してしまうなどの勘違いもあるだろうが、勘違いであれば、「情報元」さえ明確にしてあれば後の訂正・修正が可能である。厄介なのは、政府や団体による情報の隠ぺいや改ざんである。こうした問題行為をなくすことはもちろんだが、昨今のように「実際に起きてしまった場合」にどう対処するか、つまり、良い意味で常に疑ってかかるという態度を取っておくことが大事だと改めて感じた。

2011年5月15日日曜日

教師への夢、今こそ

広島県教員採用試験説明会

説明会のメモ。

0.はじめに
1. 知・徳・体
2. 生きる力の基礎
3. 現場の先生方のお話


はじめに. 広島の現状
広島で生まれ、育ち、学び、働いて良かったと思えるような未来プロジェクト。それに向けて、特に求められる素質は、①確かな授業力②豊かなコミュニケーション能力③新たなものに積極的に挑戦する意欲④他の教職員と連携、協力し、組織的に職務遂行する能力「詳しくは前掲の記事:教職志望者のための都道府県別説明会

1. 知・徳・体
夢を育てる環境づくりのための基盤としての三要素。

1.1. 知:確かな学力
共通学力テストなどによるテストの結果は好成績。但し、間違い・無回答率などから、「思考力・表現力」がネックである事が判明。こうした分析結果を活かして、授業の改善を図っている。またその支援として、(教員のための?)DVDの製作等が行われている。また、具体的な取り組みは、以下の4点ある。

①小中学校少人数授業
TT・非常勤講師などによる少人数授業

②中学学力向上対策
今年三年目。教員が集まって、指導の在り方について研究し、それを各地の学校に活かす。

③高校学力向上対策
トップリーダーハイスクールなるものを設置し、生徒の進路希望をかなえるべく、基礎学力向上・合宿・大学ナビセミナーなるものの開催をしている。

④特別支援学校就職支援
自立した社会参画を推進。



1.2. 徳:「豊かな心」の育成
暴力行為の発生件数が、一時増加したものの、今では減りつつある。また、不登校対策として、小中学校の連携をしている。これらに関する具体的な取り組みは、以下の四点ある。

①生徒指導総合対策事業
指導重点校をおいたり、スクールカウンセラーの設置

②「山・海・島」体験活動
非日常的な生活や、そこでの人々との関わりを通して、自立の推進・人間形成力の支援をする。

③心の元気を育てる地域支援
他者との関わり合いの中で自尊心を強め、社会参画への興味を高める。また、不登校防止の一環でもある。

④広島自慢事業
地元を知り、郷土への理解を深め、郷土愛を育てる。


1.3. 体:健やかな体
測定の結果、年々体力は付いているが、「握力・ボール投げ」において劣っている。



2. 生きる力の基礎
2.1. ことばの教育
思考・判断・表現力をはぐくむ点から、地元についての紹介などを通してことばの教育を推進。

2.2. キャリア教育
地域や産業界などとの連携を取っている。また、小中高一貫で「私のキャリアノート」なるものを用意し、今までの自分の職業観などを保存する。社会人として自立するための、資質や能力・意欲などをはぐくむ。

2.3. 食育の推進
H19より、知識・実践力をそなえ、家庭での食育の大切さを心得ている「栄養教諭」の配置。また、地元産の食材を使う事によって、業者への感謝、郷土に関する理解・愛着を育てる。


3. 先生方のお話
現場の様子と、試験に向けた勉強法について、四人の先生からお話しがあった。

3.1. 現場
教師をクラスの一員として見てくれたり、保護者の方、他の教職員の方の理解や手助けなど、様々な支えがある中、それに甘んじることなく全力を尽くしておられる。

3.2. 対策
 [一次]
兎にも角にも「広島県教育資料」と「教科の学習指導要領」の熟読。前者は、広島県が特に力を入れている四項目「生徒指導」「ことばの教育」「食育」「特別支援」に関しては必須。後者は、やはり読みづらいらしいが、大切な点は「~~に配慮する」や「~は次の三つある」等の文句が出るところを重点的にするとよい。また、読んだ内容を丸暗記ではなく、まとめるなどしてまず理解し、それから徐々に暗記に移るという手もある。
 [二次]
人との関わりを持つ、現場を見る、新聞などで教育問題をチェックするなどして基礎的な力を付けるとともに、それらを統括するための自分の軸をもつように努めるべき。また、指導案は実践を通してその内容・流れの確認・改善の積み重ねが大切。模擬授業も面接も、あとは練習あるのみ。本番では、授業内容も然ることながら、生徒に気を配った授業の展開を。

以上

キャリア教育・職業教育答申

今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について(答申)

勉強した感を残すための試み。自分の解釈に基づく点もあり、その点では内容をゆがめてあるところもある。答申の内容に関して知っておこうとされている方は、以下リンクより本物を読まれる事をお勧めします。

http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2011/02/01/1301878_1_1.pdf

<諮問>

まず、本答申が基づく諮問を以下にまとめる

「国際化・少子高齢化などの社会変化において、自立した人材の育成が求められる。その一方、フリーターなどの増加といった問題から、学校から社会・職業への移行が円滑でない事がうかがえる。そんな中、平成187月に閣議決定された教育振興基本計画の「取り組むベき事項」として「キャリア教育・職業教育の推進」が挙げられた。これらを踏まえ、キャリア教育の在り方の検討を行う必要がある。」

<答申>

以下は、本答申のまとめである。

1. はじめに

本答申は、平成18年改正の基本法におけるキャリア教育にかんする提言を受け、各界から集まった委員の経験の下、人々の生涯にわたるキャリア形成を支援する観点から、学校におけるキャリア教育の在り方についての審議である。

(幼・小・中・高・大など)各学校段階でのキャリア教育の方針に併せて、さらなる学びを希望する学生・社会人への改善方策の提言もしている。また、教育界・産業界などの壁を越えた取り組みの必要性も網羅的に提言している。

2. 背景と経緯

2.1. 背景

以下、三点の項目に分けて述べるが、それぞれの項目は互いに関係し合っているため、重複する項目もある。

2.1.1. 生徒・保護者

職業に関する不十分な情報提供や、将来の見通しの立てにくさが、将来のための学習という意識を低下させている。また、若者の社会性・労働意欲の低下が問題視されているにもかかわらず、企業の人材育成が不十分であるという悪循環がある。

2.1.2. 社会情勢

グローバル化・知識基盤社会・科学技術の発展などによる、求められる技能や人材の多様化や、第一次・第二次産業への就業者の低下とそれに伴う第三次産業就業者の増加が起きている。また、雇用情勢の悪化が引き起こす非正規雇用の増大が、労働者の高齢化による後継者問題や人材の能力低下の問題を助長している。

2.1.3. 教育機関と企業

新卒の雇用情勢の悪化や、それによる非正規従業員の増加、さらには若年無業者が増加している。加えて、就職活動の早期化・長期化などの問題もあり、いちど非正規の雇用を受けた後に再度就職活動を行う事が困難になってきている。また辞職の懸念・不景気から、企業側に、人材育成を行う余裕が無くなっている。

2.2. 経緯

2.2.1. 政府の対応

大学と職業の接続の在り方についての提言;キャリアカウンセリングなどの相談支援・奨励金の創設・「雇用意欲の高い中小企業と新卒学卒者等のミスマッチ解消」の取り組み・卒業後三年以内の未就業者の新卒枠の拡大・早期採用選考活動の抑制などによる支援など。

2.2.2. 課題

○特別支援学校を卒業した人たちの社会参加を支援したり、その環境を整えたりすること。

○少子高齢化・グローバル化における労働力人口の減少に対応すべく、キャリア教育や、大学における専門的知識・技術の教育を充実させるなどして、現在の学習を将来や将来の仕事との関連を意識させること。fmfmφ(. . )

○職業・進学についての情報の提示・アドバイスを充実させ、就職・進学に関する不安を緩和すること。

3. キャリア教育の在り方と課題

3.1. キャリアと職業教育

[キャリア]

人は、人との関わり合いの中でそれぞれの役割を果たしている。そのような環境において、自分らしさを形成していく。この積み重ねを「キャリア」と呼ぶ。そのような価値観や態度を身につけさせるのが、キャリア教育である。したがって、「職場体験すなわちキャリア教育」とは成りえない。キャリア教育は、生涯を通してなされるべきである。

[職業教育]

職業教育とは、専門的な知識、技術の育成である。しかしその専門的知識や技術の習得のためには、基礎となる能力が必要である。したがってこれに関しても、キャリア教育と同じように、生涯を通してなされるべきであるという事が出来る。

3.2. キャリア教育の意義と方向性

3.2.1. 意義

我々は仕事を通して、自分の力を発揮し、社会に貢献することが出来る。またその中にも、やりがい・収入・社会への帰属感・自己の成長など、個人個人によって様々な価値を見出すことが出来る。それを教える事に、キャリア教育の意義がある。

3.2.3. 方向性

就職や進学に必要な力などを明確化する必要がある。具体的には、「コミュニケーション能力」・「粘り強さ」・「課題発見・解決能力」・「変化への対応能力」・「協調性」・「判断力」・「企画・組織力」・「自己管理能力」などが挙げられている。これらを、5つに分けて表示しているので、それを提示する

○基礎的・基本的な知識・技能
○基礎的・汎用的能力

○論理的思考力・創造力

○意欲・態度及び価値観

○専門的な知識・技能

3.3. 各学校段階

ここでは、高校・大学に関してのまとめにする。それぞれのまとめ方は、答申においても違っているため、ここでも別々の形でまとめる。

○高等学校(特に普通科)

[現状]

進路を不安に思う生徒が多数を占め、さらに高校までに職業を意識したことが無い大学生もいることから、将来を上手く思い描けていない事がうかがえる。大学進学も、モラトリアムを謳歌するためという場合が比較的多い。一方、職業について考えている学生は、比較的しっかりした将来設計をしている。つまり、高校卒業前までに職業に対する意識を持たせることが大切であると言える。

 [指針]

自己の在り方・生き方を考え、主体的に進路選択が出来るよう、学校の教育活動全体において組織的・計画的な進路指導が求められる。

具体的には、理解が追いついていない生徒への対応し、学習意欲を向上させる。将来のキャリア設定を自ら考えさせる。社会的・職業的に自立出来る能力の基盤を作る。キャリア形成に必要な知識を、教科・科目をとおして理解させる。卒業生・地域の人らとのインタビューを通して自己の適性を判断させる。以上の活動を通して価値観を形成するなどある。

○大学・短期大学

[キャリア教育]

教育課程の内外を通して社会的・職業的自立に向けた指導のための体制の整備・教育課程上の工夫が求められる。

[職業教育]

焦点を置く人材像・能力を明確にし、学習のニーズに答えた実践的教育のさらなる展開が求められる。

これ以下、上に挙げた内容を若干具体化したものや、具体的な方向性などが書かれているため、まとめると同語反復になってしまいそうなのでここでやめる。

<感想>

自分の事は棚に上げるようだが、冗長な文章が目立った。また、具体策の提示もそれほど具体的でないような印象を得た。それはきっと、お役所のいろいろな制約が関係しているのだろうと思う。しかし一方で、興味深い内容もある。いかに必要な内容だけを効率よく拾い読みしていくかが カギであるように感じた。