1. 一言でいうなら
失われた視覚が感知するものは、太陽等の強い光のみ。視力を失った人間が、不安という暗闇の中で見る一筋の光とは。
と言ったところだろうか。
2. 良かった点
独特の世界観のようなものもあるし、設定も非常に面白い。終始安心して読める感覚と、ふっと作品に引き込まれる感覚は読んでいて心地よかった。
3. 悪かった点
色んなジャンルが混ざっていて、そのバランスは素晴らしい。しかし、ミステリー:ホラー=4:1の作品に、2倍希釈した恋愛小説を足して10にしたような、なんとなく物足りない作品であるように感じた。
4. 読み終えてみて思う事
「ミステリーを読む」・「ホラーを読む」という感覚ではなく、「乙一の作品を読む」として読んでいたら、物足りなさを感じずにすんだかも知れない。
市川拓司(2005) 『世界中が雨だったら』 新潮文庫
本書は、
『琥珀の中に』
『世界中が雨だったら』
『循環不安』
の三編の短編から成ります。
1. 琥珀の中に
内容に少しでも触れるような記述をしてしまうだけで、ほんの少しネタばれになってしまうほど、一つ一つの事象がお互いに緊密に関係し合っています。紹介やまとめの代わりに、最初の段落だけ引用することにします。
「いまになって思えば、それはある種の耐久レースのようなものだった。どこまで耐えられるか。どこまで忠誠を貫けるか。それは愛と寛容を試すテストだったが、同時におそらく何かもっと別の資質も試されていたんだと思う。」(p.8)
2. 世界中が雨だったら
これも下手に触れると、軽いネタばれになってしまいます。雨というメタファーが、その他の色んなメタファーを連想させます。
3. 循環不安
タイトルどおりです。循環する不安に、こちらまで不安にさせられる作品です。前半と後半に分かれているようなイメージでした。
4. 全体を通して
読む順番の影響もあるかも知れませんが、何となく乙一の作品に似ているようなところもあったように思えました。
作品は、先が読めるもの、何重かのどんでん返しがあるものなどあり、どの作品を読んでも面白く読むことが出来ました。ただ、前に読んだ『いま、会いにゆきます』・『弘海~息子が海に還る朝~』の系統の作品の方が個人的には好みです。
作家の違う側面を見るのもまた面白いと思いました。
市川拓司さんも乙一さんもその道を究めてほしい。
返信削除それぞれに得意なジャンルがあるので。
特に市川さんは恋愛小説が素晴らしいと思います。
どこぞのサイト(↓)に、市川さんの評価が載ってます。
http://www.birthday-energy.co.jp
どうやら若い頃はダメだった時期もあるそうですが、
いまは涙が出てきちゃうくらい、切ない恋愛小説を書き上げる
方です。
乙一さんの記事も索引から見つけました。
お二方の作品、これからも目が離せないです。