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広島大学教育学部卒業。 読書・昼寝・ゲーム・カードゲームなどを趣味とする。 RIP SLYMEが好き。宮部みゆき・東野圭吾・星新一・夏目漱石・小川洋子が好き。 最近数学・宇宙論・翻訳などに興味がある。 アニメ・声優オタ
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2011年6月8日水曜日

ナイダ・柳父

ユージーン・A・ナイダ(1963) 成瀬武史訳 『翻訳学序説』開文社出版株式会社

1. 翻訳における主観性の危険

いかなる翻訳者でも、「言語の伝達内容の解釈に、対応する語と文法形式の洗濯に、そして文体上等価のものを選ぶ際に、(中略)伝達内容に注ぐ全般的な共感に、もしくはその欠如によって、左右されることは避けがたい」という。しかし一方、「翻訳者は(中略)伝達内容をゆがめることがあってはならない」。(P.224)

そこで翻訳者は、「自分自身の介入を最小限度に食い止めるよう(中略)努力をしなければならない。」

1.1. 翻訳者の介入(1) ~個人的好み~

「故意に(中略)自身の政治的、社会的、宗教的好みに合致させよう」という故意的なものよりは、「個人の仕事に作用する、無意識的な個性」による場合が多い。(p.225)

1.2. 翻訳者の介入(2) ~温情的態度~

「読者は(中略)説明を必要とするにちがいない。と思いこ」む場合や、『「改良」を施さないことには、伝達内容を伝えることが出来ないと信じたりする』場合が考えられる。(p.225)

2. 様々な翻訳

2.1.

翻訳行為の三つの基本要素

(1) 伝達内容の性格[1]

(2) 著者及び翻訳者の目的

(3) 読者の種類

2.1.1. 伝達内容

内容に重きを置くか、形式に重きを置くか。情報伝達を目的とした文であれば前者だが、「旧約聖書の文字などを織り込んだ詩」などは後者に属する。(P.228)

2.1.2. 目的

原作者と翻訳者の目的は、少なくとも「似かよった、もしくは少なくとも相反しない目的をもっている」と思われているが、そうではないこともある。本書の例では、「落語家はもっぱら聴衆を楽しませることに関心をもっている」が、その翻訳家はその地域の「人柄への洞察を与えること」に関心を持っているという事が考えられる。(p.229)

2.1.3. 読者

「予想される読者がどの程度、解読能力」を持っているかに注目する。いかなる言語においても、解読能力には少なくとも以下の四つの主要な段階が含まれる。

(1)子どもの能力

→限られた語彙と文化経験

(2)新しく読み書きできるようになった人の能力

→口頭による伝達内容はよくできるが、文書の解読は限られている

(3)なみの読み書きができるおとなの能力

→口頭・文書による伝達が割と楽に処理できる

(4)専門家の能力

→専門分野の伝達内容を解読する際に発揮される能力

2.2. 形式的等価と動的等価

2.2.1. 形式的等価

形式的等価を意図した翻訳は、以下の三点に注意して行われる。(PP.240-241)

(1) 文法上の単位

a)品詞の対応 b)句・文の分割・再調整をしない c)句読点などの形式の保存

(2) 語の用法上の一貫性

→鍵語・用語の用法の一貫性など

(3) 原作の文脈から見た意味

→言葉遊びなどの「直訳風」再現

2.2.2. 動的等価

動的等価訳とは、その訳語がその言語として(日本語訳ならそれが日本語として)自然な訳の事を言う。動的等価を意図した翻訳は、以下の三つの点に注意して行われる。(PP.242-243)

(1) 等価

→訳語が、原語の伝達内容を示すこと

(2) 自然さ

→翻訳語の自然さ[2]

(3) 近似性

(1)(2)のバランスを重視しつつ、元の伝達内容から離れすぎないようにする。

3. 翻訳の評価

本書では、翻訳の基準を三点挙げている。(PP.266-267)

(1)伝達の効率

→冗長・言葉足らないよう、最小の努力で最大の理解が出来るか

(2)意味が再現される正確さ

→形式的等価・動的等価のいずれにおいても、原語の意味が取れるかどうか

(3)反応の等価

→原語を読んだ時・翻訳語を読んだ時で、読者は同じ理解(反応)ができるか

4. 翻訳における調整の方法

原語の体系を移し変える際、言い足したり、省略したりする課程が必要になる場合がある。そうした「調節」の方法が、以下の5種類に分類されている。

(1)付加

・省略のある表現の補足

・必要に応じた詳述(曖昧さ・誤解を避けるため)

・文法的に再構築するために必要な付加

・明示化(数などをよりはっきりさせる:「犬」→[a/the dog(s)]

・修辞疑問:「~だろうか(いいやそうではない)」など

・分類辞 river Jordanや「city Jerusalemなど

・連結辞 翻訳語として「そして」などの語句を補なったほうが自然な場合

・二重語 かけ言葉の訳など

(2)省略

・反復:反復が翻訳語として不自然・冗長な場合

・指示物の詳述:詳述の必要がない場合

・接続詞:(1)の連結辞の逆

・わたりの語:egonetoit came to pass

・範疇(時制) 過去完了形の省略など

・呼格 

・決まり文句 in his name by himなどにする、という点

(3)変更

・音声 固有名詞等「オチンコ選手」ごかいを招く

・範疇(時制)

・語類 殺人→人を殺す

・順序

・節・文の構造

・単一語にかかわる意味上の問題:みぞれ→雪とするなど

・比喩(外新構造の)表現の言い換え・明示化

(4)脚注の使用

A)言語や文化の不一致を是正

・食い違う主観の説明

・地理的・物理的事物の解説

・換算値の説明

・言葉遊びの説明

・固有名詞の補足説明

B)文書の歴史、文化の背景の理解を助ける知識の補足

(5)経験への原語の調整

時代に合わせた・時代が求める解釈・翻訳をするという事。
柳父章(1998)『翻訳語を讀む―異文化コミュニケーションの明暗―』
1.
 カセット効果の利点と欠点
1.1.
 利点

「日本語のこういう文法構造のおかげで、私たちは中国の漢語でも、西洋の横文字でもどしどし取り入れることができた。(中略)今日、日本人が世界中の先進文化を取り入れて繁栄している原因も、こういう言葉の構造のおかげだったとも言えるだろう。」(P.28)
1.2.
 欠点

一方、ここに内在する「異文化コミュニケーションの最大の欠点」にもふれている。
「元の原文の中で持っていた文脈が断ち切られ、文脈が失われている。」(P.30)

ただし本人は、カセット効果による新しい日本語を認めている。
「ブラックボックスにいれたまま、ある程度受け入れていくということです」(P.172)

2. 良い訳・悪い訳とは
以上のようなカセット効果への寛大な姿勢からも読みとれるように、著者は訳に対しての寛大さを見せている。その著者が言うには、「分かりにくい訳が悪訳である」とのことである。(P.37)

研究へ

以上から、翻訳への訳者の介入に関して・カセット効果に関しての、少なくとも二点に絞っていきたい。前者に関しては引き続きナイダの『翻訳―理論と実践』を、後者に関しては柳父の『翻訳語の理論』『翻訳文化を考える』をよもうと思う

参考文献

ナイダ=ティバー=ブラネン著・沢登春仁=升川潔訳(1973)『翻訳―理論と実際』研究社

ミカエル・ウスティノフ(2003) 服部雄一郎訳『翻訳―その歴史・展望』 白水社

ユージーン・A・ナイダ(1963) 成瀬武史訳 『翻訳学序説』開文社出版株式会社
柳父章(1998)『翻訳語を讀む―異文化コミュニケーションの明暗―』



[1] 「翻訳とは第一に言語的な作用であ」り、「一方の言語から他方に移るとき」私たちは「ほとんど同じことを言う」に止まる。この「ほとんど」の存在が、「言語の習得は、翻訳にとって必要条件ではあれ、十分条件ではない」ことの理由である。「実務テクスト」に置いては内容の伝達が重要で、「芸術的テクスト」では「語順や語数、イメージの厚みにまで気を配る」ことが重要である(ミカエル・ウスティノフ(2003) 服部雄一郎訳『翻訳―その歴史・展望』 白水社)

[2] 「文体上の特色を再現して、ことたれりとしていた。しかし新しい翻訳の焦点は、(中略)読んだり聞いたりする人、つまり受容者が、どのような感じを受けるかという点に、しぼられてきた」(ナイダ=ティバー=ブラネン著・沢登春仁=升川潔訳(1973)『翻訳ー理論と実際』研究社)

2011年6月7日火曜日

メモ~ゼミまとめからの排除~

以下メモ。ゼミのまとめに掲載してない部分。

1. 「伝達に制限を加える要素」と「相互理解を可能にする要素」

1.1. 制限を加える要素

伝達に制限を加える要素として、以下の二つの要素が挙げられている。(p.80)

(1) 同種の経験を現すのに、正確に同じ記号を用いるものは二人といない

(2) 同じ記号を正確に同じ方法で用いるものは二人といない。

1.2. 相互理解を可能にする要素

一方で、高度な相互理解を可能にする要素も挙げられている。以下の四つである。(PP.80-83)

(1) 知的活動の類似性:根本的に思考過程は本質において同じである。

(2) 身体的反応の類似性:身体の反応の形は似通っている。

(3) 文化的経験の範囲:文化の主要素(物質的・社会的)への参加方法の類似。

(4) 行動様式への順能力:子どもだけでなく大人も、文化に順応する力がある。

以上のことから、「完全な伝達が個人間に不可能だという事実にもかかわらず、同一言語社会内であろうが、異なる社会内であろうが」【1.2.】で挙げた四つの要素のため、「高度に有効な伝達がすべての民族の間に可能なのである」(p.83)

2. 指示的意味と情緒的意味

2.1. 指示的意味

一般的な三つの記述方法(P.104)

(1)指示物や、その特徴の提示

(2)その語が含まない領域との境界線の明示

(3)同義語の表示

2.2. 情緒的意味の分析

文化的脈絡によるか、言語的文脈によるしかない。

ミカエル・ウスティノフ(2003)服部雄一郎訳『翻訳ーその歴史・展望』 白水社
p.16
根本的翻訳不可能性


P.56
そもそも本当の翻訳の形が一つしか存在しないなどと仮定する必要はないのである。
一八一三年の(中略)『翻訳のさまざまな方法について』(中略)「翻訳者は、作者をできるだけそのままにし、読者が作者のところまでやってくるようにするか、あるいは読者をそのままにし、作者が読者のところまでやってくるようにするか、そのいずれかである。」

P.59
文学の翻訳は言語的な作用ではない。それは文学的な作用なのだ。エドモン・カリー(1985)『翻訳はいかに行うべきか?』

P.74
言語内翻訳、つまり言い換えは、言語記号を同一言語の別の記号を用いて解釈するものである。(中略)さらに他人と完全に同じことを表現したい場合、まったく異なる単語や言い回しを自分なりに用いるだろうことを思うと、それはあたかも(中略)翻訳を行っているかのようである。シュライエルマッハー(1813)『翻訳のさまざまな方法について』

P.77
「起点言語」の側の言い換えは、どちらかといえば、理解の次元に属す。「目標言語」の側の言い換えは、どちらかといえば、表現の次元である。(だからこそ、プロの翻訳においては、(中略)原則として、より習熟度の高い言語に向かってしか翻訳すべきでないとされている。)


「実務テクスト」に置いては内容の伝達が重要で、「芸術的テクスト」では「語順や語数、イメージの厚みにまで気を配る」ことが重要である。



W.A.グロータース/柴田武 (S42)『誤訳 ほんやく文化論』三省堂新書
「まず、翻訳は、A言語の概念(concept)の“核心”(kernel)のところだけを移し替えて、それに対応することばをB言語のなかで生み出すような過程である、と定義することができる」(E.A.Naida: Toward a Science of Translating. Leiden. 1964. p.146)


2011年5月25日水曜日

落語の翻訳に関する研究に向けて

この資料は、以下の三つの文書をまとめた物である。

①村上春樹・柴田元幸(2000)『翻訳夜話』文春新書小

②林敏彦(2000) 『洋画の字幕翻訳の特徴とその類型』人文研究 (2000), 100: 27-82

2000-09-29公表

James R. Bowers (1996) “AVOIDING THE TRAP AND SETTING IT FOR OTHERS: THE WORK OF INTERPRETATION AND PERFORMANCE IN THE TRANSLATION OF RAKUGO: JAPAN’S POPULAR NARRATIVE ART”

上二つに関しては過去のブログ記事参照

映像翻訳~字幕の役割~

『翻訳夜話』

[翻訳夜話]

0. はじめに

本書は、翻訳セミナーにおける二人(村上・柴田)のやり取り、また、そのセミナーの参加者との質疑応答を文字に起こしたものである。セミナーは3回、大学生対象・翻訳家志望者対象・現職翻訳家対象で行われている。

1. 翻訳の在り方

本書中で、村上・柴田が述べる“良い翻訳”の要素についてまとめる。

1.1. 原文の感じを読み取る

村上は、翻訳では、「シンパシーというか、エンパシーというか、そういう共感する心」や「相手の考えるのと同じように考え、相手の感じるのと同じように感じられる」(p.38)という点が大切であり、そのためには「原作者の心の動きを、息をひそめてただじっと追うしかない」(pp.62-63)と述べている。また、柴田はこの点に関して、「「うまい翻訳だな」と読者に感じさせること自体が、悪訳の証」(p.109)である可能性を提示している。

1.2. 訳語選択

 訳語を選ぶ際、村上は「目をクリクリさせた」や「目をむいた」という直訳の表現が目につくという。(p.101) 柴田もこれに関しては、「一単語、一単語対応で再現するひつようはないですよね。」と述べている。(p.103) ここから、文脈によって訳を変える必要もある、という点がうかがえる。

 しかしその一方、「創作的親切心が成功している翻訳の例を、僕はあまり目にしたことがありません。」と村上は言う。そうした「親切心」が、「翻訳者のただの自己満足」になる可能性の指摘である。(p.108) 訳語の選択は、その場その場で柔軟に行う必要があると言う事である。

2. 翻訳におけるスコポス理論

スコポス理論とは、翻訳はその目的に応じて形を変えるというものである。本書でもこの点が指摘されている。村上は、「細かいところが多少違っていたって、おもしろきゃいいじゃないか」(p.20) と述べている。また、翻訳者としては、「読む人は違和感を感じると思ったら、翻訳者は自分の判断で変えていいんじゃないか」(p.62)という見解も述べている。

 実際に自著の作品の翻訳に関しては、「自分が書いた本なのに「おもしろいじゃない」と他人事みたいに言って、最後まで読んでしまえるというのは、訳として成功している」としている。

[洋画・字幕]

0. 本論文の概要と、これをまとめるに当たって

本研究は、洋画を活用した授業展開における、「学習者及び教育者の双方にとって有益な次資料を提供すること」を目的とした物である。実際に35本の洋画を分析し、字幕の本質の分析・特徴別の類型化を試みている。(ABSTRACT要約)

本まとめでは、conclusionにある字幕の役割と、その根拠となる具体例とについてまとめる。したがって本文中における、字幕を18種類(簡略・省略・類似・一般化など)に分類して論じている部分に関しては扱わないこととする。

1. 字幕の特徴・種類(conclusionより)

本論文のconclusionでは、字幕の役割・特徴を7種類に分けてまとめている。以下に示すものは、conclusionをさらに簡潔に書き換え、その根拠となる具体例を付け加えた物である。

①正確さよりも明瞭さ(例示なし)

②字幕スペースの制約による簡略・省略。(例示なし)

③行き過ぎた省略

例) [It's ten after 9:00. Why aren't you in school?] → 「学校 はどうした?

『「もう9時過ぎているぞ」を入れてもよかったのではないだろうか。字幕スペースの余裕は十分あったはずであり、この省略は行き過ぎではないだろうか。』(p.67)

④雰囲気・細かな感情の表現を損なう簡略・省略

例)[I’ll take it back to Tony with a message.] → 「おれが返してやる」

「説教してやろうという主人の怒りが伝わってこない。(中略)怒りは感じられるものの、やはり物足りない感じは否めない。」(pp.55-56)

⑤混乱を防ぐための、説明台詞の簡略・省略

例)[Mr. Cannelli wants a little souvenior.] → 「その前に舌を切り取ってやる」

Mr. Cannelliは、組織のボスである。本論文の説明文から推測すると、Cannelliの手下がつかまって、殺される(殺されそうになる)シーンである。Cannelliは特に重要な役ではないため、下手に名前を出すと観客が混乱してしまう。 (pp.71-73)

⑥ 情報の明確化・説明台詞としての字幕

例)[Now… Fulfill your destiny and take your father's place at my side.]

→「さあ、父を殺し自分の運命に従うがいい  父の後を継ぎ私の下僕となれ」

「皇帝がルークに父親を殺してダークサイドに入ることを勧めているシーンである。原文にはない「父を殺し」を付加することで「自分の運命」の内容が明らかになり説明台詞の役割を字幕翻訳が果たしている。」(p.70)

⑦ 日本語の助詞を活用した字幕

例)[No matter what happens, we land this aircraft. Is that understood?]

→「何が何でも着陸させるのだ」

『「のだ」という文尾によって命令の絶対性が強調され、下線部の省略の分を補っているようである。』 (p.65)

[落語・翻訳]

0. 本論文とその“まとめ”に関して

0.1. 本論文は、三遊亭円笑による、文七元結(ぶんしちもっとい)の「枕」(落語における“前置き”のようなもの)の部分を分析している。構成は大きく三つに分けられる:①「落語とは何か」の説明(落語のレトリック・落ち・種類)②文七元結に関して(あらすじ・構成・解釈と分析・transcriptと英訳文の提示)③結論。

0.2. ここに取り上げるに当たって

「落語とは何か」や「文七元結に関して」に分類した部分は、あまりに具体的であるためここではほとんど扱わず、中でも重要と思われる点に関していくつか取り上げるだけにとどめる。

1. 落語のレトリック

1.1. 間

ここには、三種類の間:①笑いの要素に気付かせる間、②リズムを取る間、③場面の切り替わりを示す間、が示されている。(p.35)

1.2. 登場人物の細かな描写

落語では、登場人物が様々な方法で描写される。例えば、①声を変える、②表情を変えるなどによる、個人の特定・感情の表現が挙げられる。またこの描写によって、「いちいち誰が話しているか提示せずに済む」というのが挙げられている。(p.35)

2. 分かりづらい日本語の文化

枕で紹介される、三道楽煩悩(さんどらぼんのう)「飲む・打つ・買う」というメタファー、特に、“買う・打つ”が示すことは、英語圏に住む人にとっては分かりづらいようである。(pp.44-45)

3. 結論

日本の言語・文化を理解することで、落語の本質が見えてくる。翻訳においても、落語の本質・味といったものの訳出は、こうした理解に基づかなくては出来ないだろう。(p.46)

研究への展望

以上にまとめた文書の、本まとめにおける位置づけは以下のとおりである。

①翻訳夜話…翻訳の在り方、目的(スコポス)の在り方といった「一般的な翻訳」という視点

②洋画・字幕…映像翻訳という立場から、字幕の在り方に関する視点。

③落語…落語の翻訳に必要な要素とは。

このことから、「落語における(映像)翻訳」についての研究が出来ればいいな、と考えている。また、桂枝雀などの「英語落語」に関しても興味があるので、文献を探したいと思う。

2011年5月24日火曜日

映像翻訳~字幕の役割~

洋画の字幕翻訳の特徴とその類型

小林敏彦

人文研究 (2000), 100: 27-82

2000-09-29

○本論文の概要・本まとめにおける本研究の位置づけ

本研究は、洋画を活用した授業展開における、「学習者及び教育者の双方にとって有益な次資料を提供すること」を目的とし、字幕の本質の分析・特徴別の類型化を試みている。(ABSTRACT要約)

本まとめでは、conclusionにある字幕の役割と、その根拠となる具体例とについてまとめる。したがって本文中における、字幕を18種類(簡略・省略・類似・一般化など)に分類して論じている部分に関しては扱わないこととする。

○字幕の役目(conclusionより)

本論文のconclusionでは、字幕の役割・特徴を7種類に分けてまとめている。以下に示すものは、conclusionをさらに簡潔に書き換え、はその根拠となる具体例を付け加えた物である。

① 正確さよりも明瞭さを追及するもの。

② 字幕スペースの制約のために簡略・省略が行われる。

③ 字幕スペースに余裕があっても簡略・省略は頻繁に行われ、中には省略が行き過ぎた訳例もある。

例) [It's ten after 9:00. Why aren't you in school?] → 「学校 はどうした?

『「もう9時過ぎているぞ」を入れてもよかったのではないだろうか。字幕スペースの余裕は十分あったはずであり、この省略は行き過ぎではないだろうか。』(p.67)

④ 場面の雰囲気・細かな感情の表現を損なう簡略・省略もある

例)[I’ll take it back to Tony with a message.] → 「おれが返してやる」

「説教してやろうという主人の怒りが伝わってこない。(中略)怒りは感じられるものの、やはり物足りない感じは否めない。」(pp.55-56)

⑤ 説明台詞は、スペースの制限によってその役割を活かすことが出来ない場合がある。そのため、混乱を避けるためにも積極的に簡略・省略される場合がある。

例)[Mr. Cannelli wants a little souvenior.] → 「その前に舌を切り取ってやる」

Mr. Cannelliは、組織のボスである。本論文の説明文から推測すると、Cannelliの手下がつかまって、殺される(殺されそうになる)シーンである。

『馬乗りになり、大きなペンチを顔に寄せていく画面は出てくるので、たとえ「小さな土産」と直訳しても何のことか十分見当がつくはずだが、翻訳者はより明瞭にしたかったのだろう。』(下線筆者)(pp.71-73)

⑥ 字幕では、情報の減少以外に、情報の明確化も見られる。観客の母語や背景知識を考慮したと思われる訳例、原文の台詞自体の曖昧さや不正確さなどを補足したと思われる訳例もあり、いわば説明台詞のような役割を負うこともある。

例1)[The wave hit Europe and Africa, too.] → 「津波は世界中を襲い」

「この作品ではアジアを含む世界の隅々まで被害が拡大したことになって」いる。「字幕訳は作品の流れを汲んで」、「一般化することで原文の不備を補足した適確な訳に仕上っている。」(p.43)

例2)[Now… Fulfill your destiny and take your father's place at my side.]

→「さあ、父を殺し自分の運命に従うがいい  父の後を継ぎ私の下僕となれ」

皇帝がルークに父親を殺してダークサイドに入ることを勧めているシーンである。原文にはない「父を殺し」を付加することで「自分の運命」の内容が明らかになり説明台詞の役割を字幕翻訳が果たしている。(p.70)

⑦ 日本語の助詞はスペースを取らず、時に英語の1文をも表わすことも可能であるため、字幕ではその利点が最大限に活用されている。

例1)[A:You clean anyone? B:No woman, no kids. That’s the rules.]

→「A:だれでも殺すの B:女と子供以外はな」

『助詞「な」を付けることで自分の信条を曲げようとしない意志の硬さが表わされている。』(p.65)

例2)[No matter what happens, we land this aircraft. Is that understood?]

→「何が何でも着陸させるのだ」

『「のだ」という文尾によって命令の絶対性が強調され、下線部の省略の分を補っているようである。』 (p.65)

2011年5月10日火曜日

カセット効果

柳父 章(1976) 翻訳とはなにか 法政大学出版局



以下は、ゼミの課題用としてまとめた物であるため、大部分を割愛したり、特定の箇所を必要以上に取り扱ったりしている。


本書では、翻訳語と「カセット効果」の関係について言及がされている。これらの事に関して、本書では “liberty” “right” “society”、そして三人称代名詞を例にして論じてあるが、前三者に関してはあまりに具体的なので割愛する。本レジュメは、「カセット効果とは」・「翻訳とカセット効果」・「三人称代名詞とカセット効果」の三点からまとめている。

1. カセット効果とは
カセットとは、宝石箱を指す。魅力的であり、「中にはきっと深い意味がこめられているに違いない、という漠然とした期待」をもたせ、「人々を惹きつける」物の事を示す。(p.25)以下ではその「宝石箱効果」とはどんなものかを、もう少し詳しく説明する。

1.1. 言葉自体の意味と反比例する意味
カセット効果を言いかえると、もともと無意味なことばのもつ効果である。と言う事もできる(p.29) 本書にUFOを用いた例があるので、それを引用する。

「UFOを問題にし始めた人々は、地球のできることの限界を知り、ひそかに恐れるかも知れない。あるいは、それは仮想敵国への恐怖心をかき立て、軍事費を増大させるかも知れない。未確認物体は、それが未確認であればあるほど、意味づけによる意味の再編成に与える影響力は大きいのである。」(p.58)

このように、「カセット効果は、ことばの意味の豊かさとは反比例のような関係」に位置するものであるという事が出来る。(p.158)

1.2. もうひとつの意味と矛盾
上に見たようにカセット効果は、言葉自体が持つ意味のほかに、文脈において与えられる「もうひとつの意味(p.85)」をもつとも言える。ここで、言葉のそれ自体の意味と、文脈における意味の間に矛盾が生じる場合がある。これに関しては、「2.2. 翻訳語の矛盾」で述べる。


2. 翻訳におけるカセット効果
2.1. 翻訳語とカセット効果
著者は以下のように述べている。

「翻訳語は、カセット効果をひき起こしやすいことばである(中略)逆に、カセット効果をひき起こしやすいことばが、翻訳語として選ばれるのである」。なぜなら「ことばを選び、定めるのは(中略)民衆である」からである。カセット効果を持つ語は、「自分たちの日常語の文脈に解消されないような差別可能な語感を残して」いる。この「異質なもの」という感覚がカセット効果である。(p.158)

2.2. 翻訳語の矛盾
これに関して、本書から読み取ったことを自分なりにまとめると以下のようになる。

rightを「権」と訳した時点で、right=権と思いこんでしまう。ここにカセット効果が生まれる。ここで矛盾が生じることもある。rightは、市民が持つことが出来るが、日本語の権は市民ではなく「御上」がもつものであった。そのため、「市民の権利」という訳には矛盾がある。しかしその矛盾をも飲み込むのが、カセット効果である。

ここには、「翻訳語とその原語とは、同じである」という「日本知識人の抜き難い通念」が反映されている。(p.62) しかし翻訳語は原文の一部を伝えているにすぎない。ならばいっそ、「もっと意味の少ないことばをもってきて、機械的に置き換えていった」ほうが、つまり、カセット効果を用いたほうがよいのではないか、という意見(p.166)である。


3. 三人称代名詞とカセット効果
もともと「彼」という日本語は「あれ」に相当し、主に物に対して使われていた。しかし、翻訳語としての「彼」は人称代名詞である。ここにカセット効果の特徴の一つである「矛盾」が見られる。(p.184)

3.1. 小説における三人称
先に、「彼」はカセット効果をもつと述べた。つまり、「彼」は未知の意味を包括しうるという事が言える。これを効果的に使った小説も見られる。それは現在においても言う事が出来る。(p.189, 204)

3.2. “空白”を埋める三人称
本書が引用している、奥村恒哉の「代名詞『彼、彼女、彼等』の考察」の一節に、「『彼』といふ新しい言葉は(中略)今まで空白になつてゐた所へ主格所有格を充填する、といふ役割を果たしてゐるのである。」とある。(本書p.175) しかし本書では「今まで空白になつてゐた」という表現に反論している。まとめると、空白があったのではなく、「彼」という新しい要素が入ってきた後に振り返ってみるとそこに空白があったように感じられるだけだ、と言う事である。

2011年4月20日水曜日

藤濤 文子(2007)『翻訳行為と異文化コミュニケーション』

藤濤 文子(2007) 

『翻訳行為と異文化コミュニケーション―機能主義的翻訳理論の諸相―』 松籟社

まとめ


このまとめは、大きく3つのセクションで構成されている。(1)においては、本書で扱われている用語の説明をする。(2)では本書で行われている訳文分析のa)概要と、b)分析結果を示す。(3)では、この本の結論を、主に本書からの引用でまとめている。

なお、文中に出てくる「ST」と「TT」とはそれぞれ、「Source Text(起点テクスト:翻訳前)」・「Target Text(目標テクスト:翻訳後)」を示す。

0.  本書のアプローチ

本書は「機能主義的翻訳理論」の立場をとって、翻訳を「異文化コミュニケーション行為」として捉えている。また翻訳に影響を与える要因を「言語の差」・「文化の差」・「コミュニケーション状況」という3つの観点に分け、実際の翻訳の比較・分析を通して考察している。

1.  機能主義的翻訳理論とは:12

翻訳を機能主義的に捉えることの意義は、「何のために、誰に対して、どのように、どの媒体で、といった翻訳行為を取り巻くコミュニケーション状況を自明のこととはせず、むしろそれこそが、そのように情報提供するかと言う翻訳行為を決定する要因とみなすがゆえに、翻訳の様々な現象が説明可能になるという点にある。」(p.34) つまり、今まで当たり前とされてきた“同じ原文から違う翻訳が生まれること”に焦点を当てて説明するものが「機能主義的翻訳理論」なのである。この理論は、以下の二つの理論を軸にしている。

1.1.  テクストタイプ別翻訳理論(Reiß 1971, 1976

このテクストタイプ別翻訳理論は、「あらゆるジャンルの翻訳の批評に用いることのできる基準を打ち立てる試み」(下線筆者)である(p.19)。具体的には、ジャンル別ではなく、言語が文章中で持つ主な機能を重視した理論である。

ビューラー(Bühler 1934)によると、言語は同時に3つの機能を果たすという。それは、①言語と対象との関連による「叙述機能」②言語と送り手との関連による「表出機能」③言語と受け手との関連による「訴え機能」である(p..19)。この理論を応用し、ライスはテクストを三種類に分けた。一つ目は、「情報型テクスト」、二つ目は、「表現型テクスト」、三つ目は、受け手に訴え、何らかの効力を与える意味で「効力型テクスト」である(p.21)。

 ライスの翻訳理論への貢献は、「翻訳ではSTの持つ3つの機能の全てを再現できない」ならば、「せめて重要な機能だけでも再現させよう」という翻訳のあり方を示した点にある。(p.24-25)

1.2. スコポス理論(Vermeer 1978, Reiß/Vermeer 1984)

スコポス(目的)理論とは、翻訳は「TTが、どのような目的で必要とされているのか」によって左右されるという理論である。(p.29) つまり、読みやすい翻訳をするのか、原文に忠実な翻訳をするのか、という目的次第で、同じ英文からでも全く違う翻訳が出来ることを示している。フェアメーアは、「翻訳行為で最も重要なのはこの目的」であり、「翻訳でなすべきことは(中略)翻訳読者との新たなコミュニケーションを成功させることだ」と考えている。つまり、「STを介したコミュニケーションとは異なった存在意義」をTTに求めたのである。(p.26)

2. 翻訳の多様性とその要因

ここでは、3456章を順にまとめていく。3章では、固有名詞の翻訳における多様性から翻訳の多様性を示し、続く456章では、翻訳に影響を与える要因:「言語の差」・「文化の差」・「コミュニケーション状況」を実例から分析している。

2.1. 固有名詞の翻訳:3

固有名詞の翻訳では、「綴りや音をなぞるという方法をとるのが一般的」であると考えられがちだが、「意味的側面が価値を持つ場合もあり、翻訳する際に音を重視するか意味を優先するかの選択を迫られたり」もする。(p.45-46)「限定的な訳しか許されないと思われる固有名詞においても、様々な訳出がなされている」ということから、「翻訳と言う行為における訳語選択の多様な可能性」を示唆している。(p.66)

2.2. 言語差が与える影響:4

a) 概要

異なる言語間において、語彙や文法は必ずしも一対一に対応しない。ここでは、名詞の単数・複数という数の文法に絞り、「言語の違いが翻訳でどのような現象を生むのか」、「その差を埋めるにはどのような方法があるのか」について、村上春樹の『ノルウェーの森』(1984)第一章の英訳・独訳における、普通名詞の訳し方から分析している。(p.70-71)

b) 著者による分析の結果

数の文法カテゴリーを持つ英語・ドイツ語においても、翻訳者の捉え方・解釈の仕方によっては「不加算名詞」や「合成語」などを使うことで、数の文法の束縛をまぬがれることができる。(p.81-82) つまり、「二言語間に数の文法的カテゴリーというラングレベルの差があるといっても、個々のパロールレベルにおいてはその差が必ずしも絶対的な影響力を持つとは限ら」ず、(下線筆者)「単複の区別を明示的に表示するかどうかは、翻訳者の捉え方をしなやかに反映するものである」と言える。(p.84-85) このように、訳者が「どのような見地に立つかで訳文が変わるのであれば、機能主義的に翻訳をみるマクロレベルの視点が必要」になるだろう、というのがこの章の見解である。(p.93)

2.3. 文化差が与える影響:5

a) 概要

言語の差異に加え、文化の差異も翻訳に影響する。本章では、吉本ばなな著『キッチン』他のドイツ語訳と英語訳を比較・分析している。ドイツ語訳では「注」が付けられているのに対して、英語訳ではそれがまったくない。その違いの分析を行うことで、文化差が翻訳にどんな影響を与え、実際のTTにどのように現れるかを明らかにし、文化の翻訳における多様性を浮き彫りにする。(p.95-96)

b) 著者による分析の結果

ドイツ語訳は、注を付けることで「イメージ」を正確に伝える反面、「読みやすさ」が犠牲になっている。(p.105) また、「日本の若者のライフスタイルや文化を積極的に紹介」しようとする翻訳者の意図が読み取れる。(p.108) 一方の英語訳は、「異文化要素をなるべく既知の要素を手がかりにしながら読者に提供することを優先し」ていて、「正確なイメージ」よりも「コミュニケーション」が成立することを目的としている。(p.105) つまり、翻訳のあり方の違いは、「どのような翻訳を志向するのか」という違いから来ている。翻訳の目的(スコポスルール)が結束性ルールよりも重要であることが、ここでも確認できる。(p.113)

2.4. コミュニケーション状況が与える影響:6

a) 概要

一つのSTからでも、様々なTTが成立する。それは、翻訳家たちの解釈の違い・時代の変遷などの、「コミュニケーション状況」・「翻訳行為における目的」に起因する。(p.115) 本章では特に、「媒体の異なるコミュニケーション」として、「映像翻訳」を考え、分析する。(p.116)

b) 著者による分析の結果

映像翻訳においては、「言語間の変更」以外にも、「音声から文字」という、「二重レベルの変換操作が同時に行われる」。また、「映像」や「音」などは、STがそのまま使われる。これは、「書物の翻訳ではありえないこと」である。(p.118-119) また、字幕には、「字数・時間制限」があり、「読み返し・中断」が出来ない。この時訳者は、「省いてよい言葉を取捨選択する」という、「取捨選択能力」が問われる。(p.121) このように「字幕翻訳」は、「顧客にわかる字幕」を作ることが目的であり、したがって「原文至上主義」の立場からの批判は不適切である。(p.130)

3. 異文化コミュニケーションとしての翻訳:78

STTTの間にずれが生じるのはある程度必然的である。あるいはそのようなずれは異文化コミュニケーション行為を成功させるために取られた選択行為の結果であると表現することもできよう。」(p.137) 例えば、「形式的側面を重視した翻訳」では「結束性」が問題になり、「自然な理解を目指した翻訳」では「忠実性とのバランス」が問題となる。(p.152) このように訳文分析をしていくことは、「異文化コミュニケーションの現場で何が起こっているかを具体的に見ていき、異文化理解の現状を明らかにするための有効な手段」である。(p.153) この分析に用いたスコポス理論は、翻訳をSTとの関係から見るのではなく、コミュニケーション行為として見る理論である。(p.156)

翻訳に影響を与える要因は、2で挙げた三点とのほかに、「翻訳者」の介入がある。(p.155)このことに関して、著者はこの本の締めくくりをこう書いている。

「翻訳者の介入のないテクストはない(中略)翻訳者がたとえ限りなく黒子に徹する場合であっても、それはそのように「意図」したものであるということを強調しておきたい。」(p.164)


アマゾン:翻訳行為と異文化コミュニケーション