1. 本書の構成
本書は、12編の短編からなる短編集である。それぞれ40ページ前後で、どれも簡単に読み切ることが出来る作品ばかりであった。
2. 本書の魅力(1) ~名推理~
本書に掲載される12編のどの作品を取っても、事件が最短のルートで解決されていくような印象を得る。そしてそれを可能にするのが、ホームズの類まれなる頭脳と観察力である。
ホームズは、どんな小さな手がかりも見逃さず、そこから並はずれた量の情報を引き出す事に優れている。例えば、依頼人が入ってきた時点でその人物の職業や家を出た時の様子、抱えている問題などを瞬時に見つけてしまう。本書からの例でいうと、
「あの娘の袖口には二本の筋がはっきりとついている。手動式のミシンでも同じような跡が残るが、その場合には左手の、それも親指から一番遠い部分につくはずだ(中略)右手に、あんなに幅広くつくはずはない。それから、顔を見ると、鼻の両側に、鼻眼鏡ではさんだくぼみの跡がある。」
という理由から、その依頼人に向かって
「だいぶ熱心にタイプを打っておられるようだが、近眼では、さぞ疲れることでしょう。」
と言ってのける、というシーンがある。(pp.91, 102)
言われてみれば簡単なことなのだが、それに最初から気付こうとすると難しい。このように、決して早とちりではなく、確たる証拠に基づく推論を重ねていくことで、最短のルートで真実にたどり着くのである。
3. 本書の魅力(2) ~ホームズの人柄~
シャーロック・ホームズは、いわゆる「教養あるイギリス紳士」である。ここに大変に魅力を感じた。以下に三点にまとめる。
3.1. 教養
物語の最後に、ホームズが名言を引用するというシーンが度々見受けられる。こうしたさりげない引用は、何と言ってもかっこいい。まるっきり主観である。
3.2. 没頭
ホームズが科学実験に没頭するというシーンがいくつかある。時には夜通し実験しっぱなしという記述もあり、趣味に没頭できる人間はかっこいいな、と思わされてしまう。主観である。
3.3. 余裕
私たちはよく、必要のないところで焦ったりそわそわしたりする事がある。例えば遠足の前日や、スポーツの試合の数時間前などが挙げられる。これはホームズの場合に置き換えると、いよいよ犯人を取り押さえに現場に乗り込むというシーンとなる。ある家の主人が数時間後に家を留守にするので、その留守の間に調査に入ろう、などと言う時、ホームズはおもむろにバイオリンを弾き始めたりする。こういう余裕は、かっこいい。これも主観である。
感想
私は、シャーロック・ホームズを読むのはこれが初めてである。にもかかわらず、早くもその人柄に魅了されてしまった。【3.】で挙げたようなホームズの魅力を、少しでも自分の生活に取り入れていきたいとつい思ってしまう。登場人物の魅力や読みやすさなど、どれをとってもお勧め出来る一冊である。
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