私たちは、検索することで簡単に答えを得ることが出来る。しかし、果たしてその過程に「考える」という行為はあるだろうか。本書は、検索ばかりで「思索」をしなくなったことの問題を扱っている。そのことに関して、以下に恣意的にまとめようと思う。
1. 検索することと空気を読むこと
最近ではよく「空気を読む」という言葉が使われる。著者はこの現象と「検索」には関係があると考えている。
1.1. ランキング・口コミ
レストランにしても本にしても、最近ではまずレビューを見てからというのが一般になっているようだ。「みんなが読んでいる本だと、話題になったときもついていける」という考え、つまり「みんなとおなじにしていれば安心できる」という考えからではないか、という事である。(PP.32-33)本書には、「検索で現代の空気を読む、空気を読むための検索する」というサイクルの示唆もなされている。(P.36)
1.2. エクリチュールに勝る評判
読書は、読むという行為そのものに喜びがある。読書の愉悦・「書かれたもの=エクリチュールの快楽」というものである。しかし近年は、「本には結論が必要」という考えや、先に挙げた“みんなと同じ=良い”という考えがある。その最たる例が、「ケータイ小説」である。そこには「主人公が不幸」で、「親の離婚、恋人の四、レイプ、妊娠、堕胎、イジメ」という要素を含まなければいけないという、「バーチャルな「輪」」がある。(PP.28-31)
2. 空気を読め=卑屈に生きろ
「空気読みテスト」というものが紹介されている。私の友人のO君もテストを受けたようで、彼のブログ「奥ism」に、彼らしい見解が述べられている。非常に興味深い内容なので、是非読まれることをお勧めする。
空気を読むという事は、本書の著者に言わせれば、「常に相手の顔色をうかがい、自己主張を避けて、正論をいわない」という事である。(P.44)これを受けて、「「クウキを読め」という言葉を聞いたら、即座に「卑屈に生きろ」といわれたのだ」と解釈するようにしているとの記述もある。(P.108)
3. 問いかける=批判
現代の読むべき空気と言うものは、「消極的参加は許されず、ノリに身を投じるか、もしくは離脱することで孤立するしかない」というものであると著者は言う。(P.105)つまり、ある集団に属そうと思ったら、そこの“空気”にこちらから同調するしかないのである。歯向かう事は許されず、相手を否定するなんてもってのほかであるという事だ。
3.1. 失われる対話
相手の話を否定してはいけないという事は、対話が出来ないという事である。「相手の価値観と相反するような意見をいわない。「いうと傷つくから」だそうです」という記述がある。(P.147) さらには、「レストランで、料理の感想を知りたくてテーブルまで足を運んだシェフに、上司の女性が「私には少し塩がきつすぎた」といった。」という事も「ヒハンだ!」と捉えられてしまうようである。(P.148)
3.2. 傷つきやすい若者
このように、何でもかんでも批判になってしまっては何も言えない。「反論を抑えて心にため込んだ結果、つまらない(中略)批判に傷ついてしまう」という若者が増えてしまうのも、無理はないのかなとも思ってしまう。(P.151) しかしこれではただの悪循環である。
4. 言葉=単なる道具?
そもそも、相手を傷つけないような人間関係なんて空想でしかない。それは、「言葉は「単なる道具」」という勘違いから来るものであるように思う。「日常会話で、人は考え抜き選び抜いて言葉を口にしているわけではない。言葉にしたとたんに「何かいいたかったことと違うかも」(中略)など感じることは多い」(P.163) 「言葉は意図せぬかたちで相手に伝わったり、あるいはブーメランのようにもどってきて、自分を傷つけたり」もする。(P.169) そうしたことを認知せず、“相手を傷つけないように”何て言うのはおかしい。
「身体から発せられる言葉はネットにない豊かさをもっています。ことに人が人と対面し言葉を交わすとき、身振り手振り、声、表情、そして言葉を、もし情報量として換算できたとすると、それはネットワークにはおよびもつかないものになるでしょう」(P.182)
終わりに
空気を読むというものほど無意味なものはないように思います。個性を受け入れるのが大事、個性を伸ばすのが大事と謳歌しながら、推奨していることは「他人に同調する」事です。そしてこのことに違和感を覚えない人が多くいるように思います。本書には、「気配を察する」といういい言葉が使われていました。かつて「察する対象」は人間でした。現在ではそれが「雰囲気」に取って代わられています。空気を読むのは、慣れ合いでしかありません。空気を読む暇があったら本を読み、雰囲気を察する代わりに相手の気持ちを察することが出来るようにしていきたいと思います。
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