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広島大学教育学部卒業。 読書・昼寝・ゲーム・カードゲームなどを趣味とする。 RIP SLYMEが好き。宮部みゆき・東野圭吾・星新一・夏目漱石・小川洋子が好き。 最近数学・宇宙論・翻訳などに興味がある。 アニメ・声優オタ

2011年5月10日火曜日

カセット効果

柳父 章(1976) 翻訳とはなにか 法政大学出版局



以下は、ゼミの課題用としてまとめた物であるため、大部分を割愛したり、特定の箇所を必要以上に取り扱ったりしている。


本書では、翻訳語と「カセット効果」の関係について言及がされている。これらの事に関して、本書では “liberty” “right” “society”、そして三人称代名詞を例にして論じてあるが、前三者に関してはあまりに具体的なので割愛する。本レジュメは、「カセット効果とは」・「翻訳とカセット効果」・「三人称代名詞とカセット効果」の三点からまとめている。

1. カセット効果とは
カセットとは、宝石箱を指す。魅力的であり、「中にはきっと深い意味がこめられているに違いない、という漠然とした期待」をもたせ、「人々を惹きつける」物の事を示す。(p.25)以下ではその「宝石箱効果」とはどんなものかを、もう少し詳しく説明する。

1.1. 言葉自体の意味と反比例する意味
カセット効果を言いかえると、もともと無意味なことばのもつ効果である。と言う事もできる(p.29) 本書にUFOを用いた例があるので、それを引用する。

「UFOを問題にし始めた人々は、地球のできることの限界を知り、ひそかに恐れるかも知れない。あるいは、それは仮想敵国への恐怖心をかき立て、軍事費を増大させるかも知れない。未確認物体は、それが未確認であればあるほど、意味づけによる意味の再編成に与える影響力は大きいのである。」(p.58)

このように、「カセット効果は、ことばの意味の豊かさとは反比例のような関係」に位置するものであるという事が出来る。(p.158)

1.2. もうひとつの意味と矛盾
上に見たようにカセット効果は、言葉自体が持つ意味のほかに、文脈において与えられる「もうひとつの意味(p.85)」をもつとも言える。ここで、言葉のそれ自体の意味と、文脈における意味の間に矛盾が生じる場合がある。これに関しては、「2.2. 翻訳語の矛盾」で述べる。


2. 翻訳におけるカセット効果
2.1. 翻訳語とカセット効果
著者は以下のように述べている。

「翻訳語は、カセット効果をひき起こしやすいことばである(中略)逆に、カセット効果をひき起こしやすいことばが、翻訳語として選ばれるのである」。なぜなら「ことばを選び、定めるのは(中略)民衆である」からである。カセット効果を持つ語は、「自分たちの日常語の文脈に解消されないような差別可能な語感を残して」いる。この「異質なもの」という感覚がカセット効果である。(p.158)

2.2. 翻訳語の矛盾
これに関して、本書から読み取ったことを自分なりにまとめると以下のようになる。

rightを「権」と訳した時点で、right=権と思いこんでしまう。ここにカセット効果が生まれる。ここで矛盾が生じることもある。rightは、市民が持つことが出来るが、日本語の権は市民ではなく「御上」がもつものであった。そのため、「市民の権利」という訳には矛盾がある。しかしその矛盾をも飲み込むのが、カセット効果である。

ここには、「翻訳語とその原語とは、同じである」という「日本知識人の抜き難い通念」が反映されている。(p.62) しかし翻訳語は原文の一部を伝えているにすぎない。ならばいっそ、「もっと意味の少ないことばをもってきて、機械的に置き換えていった」ほうが、つまり、カセット効果を用いたほうがよいのではないか、という意見(p.166)である。


3. 三人称代名詞とカセット効果
もともと「彼」という日本語は「あれ」に相当し、主に物に対して使われていた。しかし、翻訳語としての「彼」は人称代名詞である。ここにカセット効果の特徴の一つである「矛盾」が見られる。(p.184)

3.1. 小説における三人称
先に、「彼」はカセット効果をもつと述べた。つまり、「彼」は未知の意味を包括しうるという事が言える。これを効果的に使った小説も見られる。それは現在においても言う事が出来る。(p.189, 204)

3.2. “空白”を埋める三人称
本書が引用している、奥村恒哉の「代名詞『彼、彼女、彼等』の考察」の一節に、「『彼』といふ新しい言葉は(中略)今まで空白になつてゐた所へ主格所有格を充填する、といふ役割を果たしてゐるのである。」とある。(本書p.175) しかし本書では「今まで空白になつてゐた」という表現に反論している。まとめると、空白があったのではなく、「彼」という新しい要素が入ってきた後に振り返ってみるとそこに空白があったように感じられるだけだ、と言う事である。

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