第5章 協同学習で学校改革に取り組む(実践編)
筆者のある中学校(O中学校)での6年間の取り組みのまとめ
5.1. 赴任した年が(2008年度)の様子と取り組み
問題行動が多い学校で、生徒の中には授業開始直後に伏せてしまう子も。学びを諦めてしまった様子が窺える。小学校で学級崩壊を経験した生徒も少なからずいる様子。ある先生からは、「この学校が最後の赴任校とはお気の毒。難しいことはできない。私も随分レベルを下げた授業をしている」と言われるほど。
取り組みは10月スタート。研修会を開いてもらって、「グループ学習の重要性」というタイトルで問題提起。授業の様子もビデオに撮ってみてもらった。グループやペアでは参加できている生徒の様子も見てもらった。今後は校内研修会を実施し、全校、全学年での研究授業を実施していくことなどを提案する「今後の方針(案)」を出した。
その一月後、別の中学校の研修会に参加した。そこで共同研究者として来ていた庄司康夫教授と話し、今後O中学校で研究に取り組む場合は協力してもらうことに。
2月に庄司教授を招いて校内研修会を行った。これをきっかけに、学校でも年5回の全体研究授業、年4回の学年研究授業などを行い、「全ての生徒の学びを保証する」という旗のもとに、多くの先生の賛同を得て進めて行った。
5.2. 改革の始まりと進行、子供たちと学校の変化
5.2.1. 改革1年目
研究副主任となり、「楽しく英語力を高める“あの手この手“」にあるような改革が始まった。その頃の校内研修の方針は、以下の通り。(覚書:フルで載せられているが、まとめではざっくり要約)
・・・方針・・・
◯ 基本方針:全ての生徒の学びを保証する
学びの共同体を作り、学び合いを通して学習。全教員が年に一度は授業を公開、全員で協議。外部講師を招いて、ともに研究を進める。先進校への視察も行う。
◯研究授業の持ち方
月一程度、当面は校内授業。指導案ではなく「デザイン」を用意する。
◯進め方
外部講師を6回招き、年4回学年研究授業をする。先進校の視察。費用が不足する場合はP TA特別会計から支出して貰えるよう依頼。校内研修を学校運営の中軸にするための組織や運営の改革。クラスは男女市松模様。コの字型を可能な限り導入。人間関係づくりとしてのグループエンカウンターなども必要に応じて導入。
◯研究授業計画(割愛)
月 日 曜日
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内容
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研究授業者
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※講師
佐藤学先生 庄司康雄先生 村瀬公胤先生 北田佳子先生
◯全体研究授業の持ち方
全体研究授業を持たない先生は、学年研究会を1回は行う。学年内で日時を決め、全体に公表して実施。学年内でも授業研究会を持つように。
◯研究推進委員会の持ち方
校長、教頭、5人の推進委員で構成。月1回定例委員会を設ける。他校や関係図書からの情報を取り入れる。全校の研究推進上の課題を明らかにする。
◯その他
先進校視察について
・・・方針終わり・・・
以上の取り組みの結果、視察先の先進校以上の成果を出すことができたと実感している。具体的には、上級生になるにつれて学びの質が上がっていること、問題行動が減ったこと、教師と生徒の関係の向上、教師・生徒ともに学び合いの成果を実感していること、があげられる。
一方、課題としては、これをいかに継続していくか、まだ学びが身についていない下級生をターゲットにした授業の工夫、ジャンプの課題の意識、学年間の連携、小中の連携、保護者との連携を意識することが挙げられる。
5.2.2. 改革2年目
市と県の、道徳教育の研究指定校となり、「心豊かな人づくり」の分野で取り組んだ。とはいえ、実際に進めたのは学びの共同体づくり。なぜなら、「心豊かな人」は、学びの結果として成長すると考えていたから。
改革前の授業では、開始直後に寝てしまう生徒が、改革2年目には、自分なりに授業に参加している。周りの生徒の答えを見て写し、写される方も嫌な顔をせずに、その生徒の授業参加の仕方を尊重していた。その結果、クラスの推薦で合唱祭の指揮者を担当するほどまでに活躍するようになった。(覚書:学びの結果として、道徳的な心豊かな生徒が育っている)
小中連携にも取り組み、学び合いの流れを小学校からスタートさせる動きに。
教師全体が、学びの成果を実感し始めた。ジャンプ課題の導入以前に、共有の課題を丁寧に教えることが大切な学力の生徒の存在、わからないと自分から言えない・聞けない生徒への対応なども視野に入れた実践が必要。
5.2.3. 改革3年目
基本方針はほとんど同じだが、全校でコの字を実施。校内授業研修や小中連携も引き続き実施。普段の授業を見合う関係もできてき始めた。
◯道徳教育研究発表
「研究紀要づくり」
学び合いと道徳教育の充実で、心豊かな生徒を育成するという研究テーマで
「学びの基本スタイルの決定」
学習内容の明確化、質の高いジャンプの課題、グループ学習に適した課題、が基本。共有課題を大事にし、ジャンプ課題に取り組み、生徒の言葉や作品によって深めるように。(覚書:一枚もののプリントが掲載されているが、ここでは概要のみ)
「研究発表会の様子」
研究推進委員会の下に、「学び合い学習部」「思いやり研究部(SSTなど)」「環境づくり推進部」を設置して取り組んだ様子を発表。
全体的に良くなってきている。今後は、全学年コの字の徹底、視察の人数の増員、関係図書の購入ができれば良い。
5.3. 研究方針変更の動きと学年の取り組み
改革が始まって4年目、言語活動の充実を目標に、その手段として協同学習があるという位置づけられた。協同学習の結果としての言語学習の充実だ、とはならなかった。研究授業の回数も減った。その結果と言えるほど原因は単純ではないが、減少傾向にあった非行も、この年度の途中から増え始めた。
学年としては、教師主導ではなく、生徒が主体となって活躍できるような学年集団を作ってきた。その中で、生徒のリーダーたちは、授業の中でも力を発揮してくれた。
5.4. 筆者最後の勤務の年の様子と実践の総括
研究授業が減った中でも、工夫して公開授業や放課後研究会を開催した。学年としては、協同学習の重要性を共有できていて、生徒にもそれを伝え続けた。クラスの生徒のケアし合う関係が、数人の生徒を救ったように思う。
O中学校の取り組みを振り返ると、ボトムアップで出発した改革だったと言える。全校をあげての協同学習の推進に取り組めたことは幸せだ。研修方針が変わって、協同学習への取り組みが弱まりこそしたが、その中でも議論を重ね、全職員総出で取り組んできた。この経験で、学びの共同体づくりのさらなる可能性について考え、理論や実践をより学び、学びの共同体づくりや英語教育に今後も関わり続けたいと思えた。
(覚書:卒業生からの感謝の手紙、還暦祝いのサプライズなど、最後に生徒や教員、保護者の方の協力への感謝で括られています。)
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