英語の文法で理解しづらいものの特徴として、 「日本語ではそう言わない」 というのがあげられると思います。つまり、 「日本語(君たちが使っている言語)でもそうでしょ?」 という説明が、文法を理解する上で大切であるということです。ならば、 「広島弁(君たちが使っている言語)でもそうじゃろ?」 と説明できれば生徒は理解してくれるのではないでしょうか。
そこで今回は、生徒が理解に苦しむ(と私が思っている)文法項目である 「進行形」 に関して、広島弁を通した教授法があるのではないかと思って、備忘録としてこの記事を書きます。
このややこしい「状態動詞」と「動作動詞」への対抗策として今回用いるのが、広島弁の進行形の表現である 「~しよる」 です。
東京の方言では、状態動詞にも動作動詞にも 「~している」 を用います。例えば 「知っている」や 「あいしている」 などです。 しかし大変興味深いことに、広島弁では状態動詞にたいして 「~しよる」 を使わず、代わりに 「~しとる」 を用います。それぞれの例をいくつか以下に提示します。
●動作動詞
読みよる 食べよる 勉強しよる テニスしよる 飲みよる 文字を打ちよる
●状態動詞
知っとる 愛しとる 生きとる 死んどる 所属しとる
2つ目の 「~しとる」 で挙げたものは全て、英語では基本的に ing の形をとらないものです。さらに興味深いことに、 「状態動詞」 を 「~しよる」 で表すと、
知りよる(今まさに知っている途中である)
愛しよる(今まさに 「愛」 という行為を実行中である/「愛」 という状態に近づきつつある)
生きよる(今まさに 「生きる」 という行為を実行中である)←哲学的
死による(今まさに 「死」 という状態に近づきつつある)
所属しよる(今まさにエントリーシートに記載中である)
という意味になります。これらは全て、英語の "I'm knowing / I'm loving / .... I'm belonging"
の意味に近いのではないでしょうか。(とは言われても、ネイティブヒロシマンでなければこのニュアンスを捉えることは難しいかもしれませんが。)
このことから、
「広島弁で ~しよる という表現なら英語では -ing を使い、 ~しとる という表現なら、英語では 現在形 を使う」
という結論が導き出せます。たとえば、
I was reading a book when you called me.
I knew it when you called me.
にはそれぞれ、
電話して来た時は本を読みよった。
(電話して来た時ぁ本を読みょーた)
電話して来た時には(はぁ)知っとった。 ※はぁ…もう・すでに
(電話して来た時にやー(はー)知っちょった。)
という訳を当てることが出来ます。またさらに、
I had ( already ) read the book when you called me.
に対して、
電話して来た時にゃー(はー)その本は読んぢょった。
という訳を当てることも出来ます。東京の方言では、 「読み終えていた」 というふうに、 「終える」 という表現を追加しなくてはなりません。つまり広島弁は 「進行形」 だけでなく、 「完了形」 という難敵すらも打ち倒す能力を秘めているのです。
これらのことを総合して私は、広島弁を用いた授業の可能性を感じました。また、これを別の方言にまで拡大していくこともできるのではないかと考えています。
ところで、今回このことを思いついたのはある鹿児島の友人との会話がきっかけでした。その友人がある時、 「~を知りよる」 という表現を使ったのです。よく話を聞けば、動詞に 「~しよる」 とつけるのが広島弁だという over - generalization による間違いであったことが判明したのですが、そこから 「~しとる」 と 「~しよる」 の違いについて考えさせられました(もちろん私一人のちっぽけな頭で思いついたことではありません。その場に居合わせた別の友人の助けがとても大きいものでした)。 私は改めて 「身近なところに思いがけない教材が転がっている」 ということを実感しました。
英語も日本語の方言も同じ 「言語」 であるからには何らかの共通性があってもおかしいことではありません。広島弁以外にも使える方言があるはずです。他にも英語と共通点がある方言をご存知の方は、ぜひそれを共有していただきたいと考えています。
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