1.韻を踏む、とは
韻には大きく2つ、脚韻、頭韻がある。ここでは脚韻にのみ触れる。
脚韻とは、リズムでいうところの「ずん・ずん・ちゃ、ずん・ずん・ちゃ」の「ちゃ」の部分である。queenのWe will rock youのリズムを思い浮かべるとわかりやすいだろう。ラップがダサい場合は、だいたいこの脚韻がまずい。
これがダサくなると、次のようになる。
a) (ずん・ずん・ずん、ずん・ずん・ずん)
リズムとしては成り立つが、同じ音、簡単なものすぎて、面白味がないもの。歌詞の例としては、
「〜ない」や「だ・だろ」「か」などのみで構成されるものである。作るのが簡単すぎるのである。例えば、
「僕のせいじゃない、君は悪くなどない、僕は見捨てない、いつまでも君を見捨てない」
「僕のせいだ、君は悪くないんだ、ぼくは見捨てないんだ、いつまでも君を見捨てないのだ」
「僕のせいなのか、君は悪くないのか、なぜ僕は見捨てないのか、君を見捨てられないのか」
ここに挙げた例は、今適当に作ったものである。そう、助詞(?)のようなものは、何にでもくっつくので、どんな歌詞でもいいのである。簡単。面白くない。ダサい。
b) (ずん・ずん・ちゃ、ずん・ずん・きゃ、ずん・ずん・ぢゃん)
リズムとしてはギリギリなりたつが、成り立たせる気が感じられないもの。歌詞の例としては、それこそ「じゃない、否めない、がたい」である。助詞的なものだけ見ると、「ない、ない、がたい」、であり、助詞ですら韻を踏み切れていないのである。ダサい。
2.かっこいいラップとは
先に挙げた脚韻が長いものや難しいもの。例えば、
(ずん・ずん・ちゃかちゃか、ずん・ずん・ちゃかちゃか)
(ずん・ちゃ・ずん・ずん・ちゃ、ずん・ちゃ・ずん・ずん・ちゃ)
または、頭韻をふくむもの。例えば、
(どぅん・つ、どぅん・つ):いかつい人の車から聞こえる重低音を思い浮かべるとわかりやすいかもしれない。
もしくは、いろいろ混ざっているもの。例えば、
(どぅん・つ・つ・どぅん・つ・つ・ちゃ)
わかりやすく、We will rock youを見てみよう。
Buddy you're a boy make a big noise
Playin' in the street gonna be a big man some day
You got mud on yo' face
You big disgrace
Kickin' your can all over the place
「Buddy you’ re a Boy make a Big noise PlaYIN’ in the strEET gonna Be a Big Man some Day」
先ほどのリズムに置き換えると、
(どぅん・つ・どぅん・つ・どぅん・つ・とぅいーん・つ・とぅいーん・つ・どぅん・どぅん・どぅん・つ・どぅん)
英語を当てはめると、
(どぅんBuddy・つyou’re a・どぅんboy・つmake a ・どぅんbig・つnoise・とぅいーんplayin’・つin the・とぅいーんstreet・つgonna・どぅんbe a・どぅんbig・どぅんman・つsome・どぅんday)
この先も、(you got) mud on yo’ fACE, you Big DisgrACE, Kickin’ your Can all over the plACE(ずん・ずん・ちゃ、ずどぅん・どぅん・ちゃ、とぅん・つ・とぅん・つ・つ・つ・ちゃ)
3.日本語はダサいのか
上記の例を見て、あなた思いましたね。「いやそれ英語やーん。日本語のこと言ってていきなり英語とかありえなくなーい?」(Bookoff風)
そう、日本語にもかっこいいものはあるのである。日本語のラップはダサい、と、巷では噂だが、それは違う。正しくは、日本語のラップはダサくなりやすい。そしてダサいラップも多い、である。
わかりやすく、RIP SLYMEを見てみよう。
JOINTより
オーディオーナイイチオシよ
やばいくらいいいぜ
言うまでもなく半端じゃない
ヴァイブレイションだ
さあくらいなスペルPSYが
フリーキーフリーキーに
ジョイント君誘おう(本当は「誘う」らしいが、発音は「誘おう」に近い)
一言では語り尽くせないが、
(どぅん・つ・どぅん・つ、どぅん・つ・どぅん・つ、ちゃ、ちゃ、つ・つ)
(つ・どぅん・つ・どぅん・つ・どぅん・どぅん・つ・どぅん(ちゃ)・どぅん(ちゃ)・つ・つ・つ・どぅん)
(どぅん・ちゃっちゃ、ずん、ずん・ちゃっちゃ)
(ずん・ずん・ちゃ、つ、ずん・ずん・ちゃ)
(どぅん:オー・つ:ディ・どぅん:オー・つ:ナイ、どぅん:イチオ・つ:シ・どぅん:よ・つ:や、ちゃ:ばい、ちゃ:くらい、つ:いい・つ:ぜ)
(つ:言う・どぅん:ま・つ:で・どぅん:も・つ:なく・どぅん:はん・どぅん:ぱ・つ:じゃ・どぅん(ちゃ):ない・どぅん(ちゃ):ヴァイ・つ:ブ・つ:レイ・つ:ション・どぅん:だ)
(どぅん:さぁ・ちゃっちゃ:くらいな、ずん:スペル、ずん:Pエ・ちゃっちゃ:スワイが)
(ずん:フリーキー・ずん:フリーキーに・ちゃ:ジョ(イ):、つ:ント、ずん:君・ずん:いざな・ちゃ:おう)
いやまて、英語が入っとるやないか。そう思ったあなた。そうです。日本語は天才的な言語であるからして、英語もあたかも我が国の言語かのように使うことができるのです。
good →ぐっど
のように、「ど」の音を目立たせてもよし、逆に
食べる→taa-belのように、「る」を「ぅ」のような音にしてもよし。
だから、日本語のラップは上手い人がやると、超絶かっこいいのです。
さらに、日本語は「子音+母音」という、諸刃の刃の性質を持っています。下手な人がやればダサい平坦な歌詞になり、うまいひとがやると、
han pa ja nai vai bure-shon da
そう、
hAn pA jA nAi vAi bure-shon dA
Aで頭韻とも脚韻とも呼べるもの(この場合はおそらく頭韻?)ができる上、
han pa ja nAI vAI bure-shon da
よく見ればaiで脚韻を織り込ませることもできるのです。(もちろん英語でもできます。)
日本語って、英語に負けないくらいのいい言語だと思いませんか?
4.おわりに
私はかつて、このようなことを聞いたことがあります。
「小説家や詩人が言語を選ぶときは、確固たる信念をもってその言葉を選ぶ。その言葉を選んだことには必ず意味があり、それ以外の言葉や表現であってはならないのだ。」
はたして、pretenderに選ばれた言葉は、このようにして選ばれたものなのでしょうか。男が恋愛にたいして未練たらたらであることのダサさを醸し出すため、という目的があるのであれば、このダサさが、わざと演出されたものであるのならば、これは完璧な歌詞だと、私は思います。しかしそうでなければ、これは言葉に対する冒涜であり(言い過ぎ)、作詞家としては未熟であると言わざるを得ません。
例えば、
離れがたい
という言葉は、
離れたくない
ではダメだったのでしょうか?(蓮舫風)
というか、後半の歌詞には、
分かりたく「も」ない
という表現が出てきます。
この表現と対比させ、「も」の語幹を強調する意味でも、最初は
「がたい」
ではなく
「たくない」
にすべきだったのではないでしょうか。
離れたくない
分かりたくもない
この対比を生まなかった理由は、わざとダサくするためとしか思えません。
さらには、
離れたく「は」ない
とすることもできます。
否めなーい でも(急ぎ目に) はなーれたーくはないー のさー
とすることで、「でも」の部分で空白を埋めるトリッキーなリズムを出すこともできます。それをあえてやらなかった意味とは。
なぜ多くの日本人はこのような言語感覚を持っていないのか。
いや、きっと私の言語感覚が異常なだけなのだろうけれども。
でも、ダサいものは、ダサい。
だから髭男、はやく曲の解説をお願いします。
わざとダサくしました。かっこいいって言ってるやつは日本語の勉強をしなおせ、と。
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