翻訳は楽しい。過去にいくつか翻訳の面白さについて書いてきたことがあるが、最も面白い翻訳のあり方の一つに、「自らの作文を英訳・日訳する」と言うのがある。この記事では、翻訳の定義をした後で、具体例を用いて解説する。
1. 翻訳とは
ここで言う翻訳とは、「筆者が書きたかったことを、他言語で、(ほぼ)100%表現すること」であり、「原文の読者も訳文の読者も、同じ体験を得ることができる」である。つまり、言葉遊びの面白さや言葉のリズムを楽しむ作品であれば、翻訳もそのような作品でなければならないし、情景をありありと思い描かせるような作品なら、訳文もそうあるべきである。たとえば、
Madam, I'm Adam.
これは回文であるので、
アダムだあ!
とでも訳してもいい。ただし、原文の「すげぇ感」を出せてないこの訳文は駄作である。
A santa lived as a devil at NASA.
これも回文。
世の中、NASAのサンタ、探査の最中なのよ
むりぽ。
古池や 蛙飛び込む 水の音
The sonud of silence lies in a frog that dives.
詩的表現は私的に詩的にしたので、わたし的には指摘はして来て欲しくないし、敵は作りたくないです。
2. 他人の文章と自分の文章
他人のものをいくつか「翻訳(笑)」してみたが、他にもやりようがあるだろうし、何より筆者から、「そんなことを言ってるつもりはない」とか言われたら終わり。読者からも、「原文の奥ゆかしさがなくね?」と言われたら終わり。
しかし、それは当然起こることである。なぜなら、
「回文を考えるような人とか、詩を書く人とか、超気持ちいい文を書く人たち」と、「私(訳者)」の文章力が桁違いだからである。プロ野球選手の打ち方を見て真似たところで、私にはヒットどころか球にもかすりはしないだろう、と言うのと似ている。
一方、自分の文章では、「原作者」と「翻訳者」の力がほぼ同じである。あとは、第二言語と母語の実力差が問題だが、ネットや辞書のおかげでその差をわりかし縮めることはできる。
3. 翻訳とは リターンズ
ということで、翻訳の定義に戻ると、自分の文章が最も正確に翻訳できる文章だ、と言う事になる。最初に見苦しい訳をのせたが、自分が書いたものなら割と筋のいい翻訳ができる。例えば、
あした いつもの 運動公園で 遠足を 行う。
こんなしょーもない文、訳すのも気が楽である。
Anyone enjoys illustrating one unicorn.
All boys can draw ellephants.
そう。文に意味などなく、あいうえおが使えていればいい。そんな文を書いたので、それ相応の訳ができている。
Since I was 20, I have read one or two books everyday. Yet, I still have too many more to go. On the corner of my room, they are always piled up. Probably, I will never finish reading all of them because I keep buying new ones everyday. You will be surprised to see how much I spend on books.
日課として、2冊程度の読書を、二十歳から続けてきた。ただそれでも、本は溜まる一方。うちの部屋のすみには、常に積み上げられた本が。頑張って読んだところで、きっと読み終わらない。いつも読み終わるより先に新しい本を買うからだ。黙って積まれる本たち。ちゃんと読まれるかもわからぬままに。
しりとりだって、自分の文だから思うように内容をかえられる。
4.翻訳の面白さ
翻訳が面白い、と感じるのは、原文がやろうとしていること(書こうとしている事)を、別言語で100%表現できた時である。
では、その完成度が100%なのかどうかをどう判断するのか。それは、
翻訳者 と 原文の作者 と 読み手
である。最も大事なのは、原作者と読み手である。そして、その原作者と翻訳者が同一の場合、読み手の評価のはさほど重要にならない。なぜなら、
「原作者が伝えたいことって、こうですよ?」
と言えるからである。(もちろん、文法ミスや明らかな誤訳など、純粋な翻訳ミスがあれば読み手も指摘できるだろうが。)
ということで、自分が書いたものなら、自分が最も納得できる形で翻訳ができる。
もちろん、プロに言わせれば、もっと良い訳ができる場合もあるだろうが、それはおそらく、原文よりもレベルの高い、質の高いものになる。つまり、80点の原文なら80点の訳が最適なのである。そして、近い点数で翻訳できるのは、原作者の他にいない。
翻訳、まずは自分の文章でやってみるのもいいのでは?